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赤→天使、緑→悪魔


落ちてるって、分かった。俺の身体とあいつの身体は重力に従って落ちていく。俺の背中に生えている白い羽だってまるで飾り物のようで使いものにならない。俺も、あいつも、翔べない。それはお互いに抱いてはいけない感情を持ったからだと思う。

綺麗な、悪魔だった。一歩間違えれば俺たち天使より綺麗な悪魔。背中に生えている黒い禍々しい羽以外、全て綺麗。いや、俺にとってはその羽でさえも綺麗なものに見えた。端正な顔立ちに、色素が薄い茶髪。そして何より吸い込まれそうな緑色の目。全部が綺麗。それは俺が悪魔であいつが天使だと思ってしまうほど。この世界に天使とか、悪魔とか、なければいいのにね。

「何を考えている」

一緒に落ちている悪魔(名前をグリーン)が言った。ちらり、と顔を伺えばグリーンはただ、何があるか分からない底を見ている。俺たちは一緒に、落ちる。

「天使とか悪魔とかそんなのなければ良かったのになあ、って」
「今、俺たちにはそんなのは関係ないだろう」

薄く笑って、とは言っても口元だけなんだけど。とにかく、グリーンは薄く笑って俺を抱き抱えた。悪魔とは思えないほど暖かい。触れた部分が溶けてしまいそう。きっと俺たちが落ちる先には比べ物にならないほどの熱さが待っているんだろうけど大丈夫。グリーンの体温より、熱いものは何もないのだから。

「俺たちがきっかけでお互い仲良くなればいいのに」
「無理だと思うがな。この先ずっと、こういう事をするのは俺たちぐらいだ」
「それはそれで嬉しいな、俺」

グリーンの背中に手を回した。黒くて綺麗な羽が手に触れる。とても薄くて脆そうに思えた。その綺麗な羽が消滅していくのを手で感じながら目を閉じる事にする。きっと、俺の羽も消滅している。このまま人間になれればいい。もしなれたらなら二人で暮らして穏やかに過ごそう。そう思っていると不意に名前を呼ばれたから目を開けた。

「何?」
「…大丈夫だ」
「そんなの最初から思ってる。当たり前だろ?グリーンと一緒なんだから」
「……それもそうだ」

そう言って優しいキス。優しいキスはこれで最後なのかもしれないけど、俺はそうは思いたくない。人間に生まれ変わってまたキスするって決めたから。一緒に炎に沈もう、グリーン。手に力を込めると、低くて安心出来る声でクリーンが「レッド」、と囁いた。俺は笑いながら「愛してる」、って言った。たったそれだけの言葉で一緒にこの世界から消滅出来るのなら本望だよ、俺。またね、グリーン。おやすみ。

(消するけど怖くないよ)


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