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シロガネ山の最深部に着いた途端、相棒であるピカチュウが入っているボールがカタカタと動いた。元からボールに入っている事は好まないと知っている俺は躊躇いもなく外に出す。きょろきょろと周りを見渡しているあたり、知らない場所に来たと分かっているんだと思う。
「…どうかした?」
そう聞くと相棒はピカ!、とだけ鳴いて地面に寝転がった(あまり人が来ないから汚くはないだろう)俺の服を引っ張った。嗚呼、もしかして、
「先に進もうって…?」
言葉が通じた事に喜んでいるのかどうかは分からないが目を輝かせて頷く。俺はグリーンに勝った。だけどチャンピオンにはなりたくない。修行をしたくて誰も人がいないここまで来た、という事実をピカチュウは知らないんだ。いつまでたっても動く気配のない俺を不思議に思ったらしく、顔を舐めてきた。もう何処にも行かなくていいんだよ、そういう意味を含めて俺は頭を撫でた。
「…俺たちの旅はおわり。全部終わったんだよ。俺はここで挑戦者を待つ事にする」
相棒は一瞬だけ悲しそうな顔をした。ポケモンにも感情はある。ある意味でこいつらは俺より人間らしい。
「一緒に寝よう。おいで」
手を伸ばせば擦り寄ってくる。俺は抱え込むようにして寝る体制を作った。暖かい。このまま俺は熱で溶けてしまいたい。それは何をすればいいか目標も何も無くなった今だからこそ思えること。少し寝て、起きたらボールの中で眠っている皆を起こして野生のポケモンたちと戦わせよう。俺の存在はそれでしか証明されないのだから。
(消えて無くなってしまえれば)
▼シロガネ山に着いた時のお話、的な。