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ロマンチックスカイブルー




太陽光線中の可視光は、大気中の微粒子によって散乱され、晴れた昼間の空では短波長の青色が強く見える。
――レイリー散乱



僕の住む町はとても平穏だ。皆が挨拶を交わし、沢山の猫がいる。町を東西に横切る桜川には、その名の通り桜の木が並んでいる。

春。この町だけではなく、恐らく日本中が緩慢する季節。満開の桜の木が並ぶ川べりで、僕はスケッチをする。埋め尽くす野草の上に座り、対岸を描く。時折、スケッチブックに花びらが舞い落ちてくる。

自転車で通りすぎる青年、子供の手を引きのんびり歩いていく女性、騒ぎながら数人で駆けていく少年少女達。その向こうにある家並みと、更に向こうのなだらかな稜線。

雲の間から差し込む陽光でスポットライトを浴び、そこだけ鮮明になったグリーンが好きだ。今日は雲一つ無い程の快晴で、山の緑はどこも鮮やかなトーンだった。

気持ち好いなぁ。手を止めて寝転ぶ。明るく淡い青色の空が見下ろしている。いつだって僕の絵はモノクロだ。空も海も、それ自体が青いわけじゃない。夕焼けだって、大気が汚れているほど赤く見えるという。

よっ、と上半身を起こす。
川面は輝いていて陽気だ。

「わん」と犬の声がした。反対側の川べりを、犬を連れて散歩する女の子。毎週日曜日。スケッチブックを膝に抱え、目を落とした。僕はその子に恋をしている。そよ風が抜けていく。帽子のつばを下げる。通りすぎた頃、ゆっくりと顔を上げ、もう一度野草の上に体を倒した。

今日ここへ来た目的はもう終わった。青い空に、大きく「へのへのもへじ」を描いた。左に見える桜川橋を北に渡ってあの子の前に行くのは、今日も断念。桜がロマンチック過ぎて、フラれるには最低の甘い環境だから。それが今週の言い訳。

僕の「好き」は、空の青みたいに、何もしなくても伝わるものじゃないのに。帰る支度をしながら、もう来週の言い訳を考えている。


恋をすると、空の青さえロマンチックだ。桜なら尚更。僕は花びらを肩に乗せ、彼女は花びらを髪に付け、同じ川べりにいた。そう思うだけで自転車のペダルが軽い。



「ロマンチックスカイブルー」

当たって砕けるのは、

まだ先にしよう。


( E N D )



咲くやこの色様提出「空色」












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