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花香に迷へど




God bless you!様提出
12/1月「波紋/見ないで、」
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「今日は帰りません」

僕は面食らった。弥生から、そんな言葉を聞くなど信じ難い事だ。どんな意味を含んでいるのかと考えたが、卑猥な想像しか出来なかった。なんたる男か。

「それは、僕のものになると言う事かい」

「いいえ」

浴衣姿で僕の前に座る弥生は、至極美しかった。そう、弥生は美人だ。しかしその分、刺々しくもある。何度チクリとやられた事か。その度に心に浮かび上がるのは、葵の愛らしさだった。

「誰なんですか。あなたの心に在る人は」

力強い目から思わず顔を反らした。弥生は気付いている。何と答えるべきか逡巡した。そんな人はいないよ、と言ってしまえば嘘を吐く事になる。既にこの沈黙が、いると答えているも同然ではないだろうか。しかし、良い言葉が浮かんで来ないのだ。

耐え難い沈黙を裂いたのは弥生でも僕でもなく、「こんばんは」と言う快活な声だった。

「矢島さん、居ませんか」

蒼白である。弥生の表情が怖い程に険しい。こうも嘘一つ付けない正直者であったとは、我ながら驚いた。
怖ず怖ず立ち上がると、玄関へと向かった。桃色の浴衣を着た葵が居た。

「居ないのかと思いました。そこの神社に来ていたので寄ってみたんです」

そう言って、葵は屈託のない笑顔を寄越す。僕は呆然と立っていた。弥生に捨てられる、とさえ、この時思った。

「珍しく浴衣なんです。でも、あまり見ないで下さい」

恥じらう葵は可愛かったが、女物の下駄が目に入った途端、すっと笑顔は消え失せた。
漣が広がる。ざざざと騒々しく、僕の中に波が立つ。身体中が騒いでいる。恋や愛というものは、何時からこうも僕を試すようになったのか。漣立つ僕に反して、葵の目は氷のように冷たく色を失っている。
女という生き物は、男には想像も出来ぬ程、一瞬にして物事を深く悟ってしまうという術に長けているのだと、友人が力説していたが、心から理解出来た。二人の間にいる自分が恐ろしく、膝が震えた。情けない。確かその友人はその後、妻に揉みくちゃにされ入院した逸話を披露したのではなかったか。

「帰ります」

そう言って玄関扉をがらりがらりと閉めて行く葵に何も言えず、唯々胸を撫で下ろした。
葵はもう此処へは来まい。あの子の素直さにはいつも癒されたが、その分弥生の事を考えていた。弥生に少し葵のような素直さがあったなら、弥生に少し葵のような無邪気さがあったなら、弥生に少し葵のような。

怯えながら居間へ戻った。弥生は変わらず、そこに座っていた。

「近所のお嬢さんだったよ。大した用事では無かった」

嘘は吐いていなかった。近所のお嬢さんというのも、大した用事では無かったというのも、事実であり真実である。しかし僕は、弥生の正面に向かい合わず横を向け座った。

「此方を向いて下さい。大事な話しなんです」

再び沈黙が訪れる。平静を装い隠している真実が、むくむくと顔を出す。それを中心に、波紋が広がる。ぶくぶくと泡を吹き始め、波紋は高波になり荒れ出した。無論、漣どころでは無い。僕に堪え切れる筈が無かった。

「すまない」

葵の事を吐露し、しかし弥生が好きなのだと繰り返した。「それは、僕のものになると言う事かい」など、一体誰の言葉だ。恥ずかし気もなく、よく言えたものだ。

弥生は何も言わずに帰って行った。僕は疲れ果て、大の字になると、盛大な溜め息を吐いた。弥生が座っていた座布団を腹の上に乗せ、もう一つ溜め息を吐いた。

もう終わりであろうか。



どちらも魅力的だったのだ
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END












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