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昼と夜の隙間に




God bless you!様提出
10/11月
魔法/「ねえ聞こえる?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥











「ねえ聞こえる?」
「うん、聞こえる」

二人の少女が腕を伸ばし、大樹に抱きついていた。神社のこの大樹は所謂「御神木」であり、しめ縄が巻かれている。

「何百年も生きてるんだよ」
「凄いよね」

「神様が来る目印なんだって」
「うん」

うっとりと目を閉じて、何度も同じ会話を繰り返す。そうしている内にいつの間にか、橙色の空にカラスが鳴く時刻になっていた。

「なっちゃーん」
階段を登って来たお母さんの顔だけが見えた。手招きをして「帰りましょ」と言う。

「えっちゃん、私帰るね」
奈津はそう言って、お母さんの所へ駆けていく。途中振り返り、「また明日ねー!」と、悦子に手を振った。「またね」と悦子も奈津に手を振り返す。

晩秋の夕暮れ、日が暮れるのも早い。切れ切れの雲が橙色に染まっている。空気も冷たく澄んでいて、夜が来たら冷え込みそうだ。悦子はもう一度、御神木に抱きついた。

この神社には鎮守の森がある。その中で前触れ無く音が響いた。空に抜けるような高い音。金属音にも似ている。悦子の体がピクンと跳ねた。

橙色だからと安心していると、空はあっと言う間に蒼みを帯びてくる。そして蒼く染まってきたかと思うと、直ぐにその色は深みを増すのだ。そうなる前に家に帰らないとお母さんに叱られる、でも。

じっと、木の隙間を見つめる。その隙間は秋らしく葉が落ちていて、よく見通すことが出来た。ざわざわと揺れ、御神木の銀杏から葉が舞い落ちる。くるくると円を描きながら、鮮やかな黄色が視界を遮っていく。

悦子は恐ろしくなった。突然響いた正体の知れない音、近付いてくる夜の気配、晩秋の冷たい風、揺れて葉を落とすお喋りな御神木。
――この場所そのものが

「かーえろ」
何か言わなければ怖さに負けそうだったのだ。飲み込まれそうで仕方なかった。ほんの少し耳を澄ました後、悦子は一目散に走った。

帰るよ、
私は帰るの、
ほら帰ってるでしょ、
なっちゃんみたいに振り返らない、
だって誰もいないから、
何もいないから!

心の中では途切れる事無く喋り続けていた。




翌日、奈津が悦子を誘いに来た。

「えっちゃん、神社行こう」
「今日は公園にしない?」
「神社がいいな」
「今日は公園」


奈津と並んでブランコをこぎながら、悦子は昨日の夕暮れの神社を思い返していた。鎮守の森にいたのは、白くて大きな大蛇だ。そんな気がする。

夕刻の不思議な隙間に出来る「逢魔時」、お祖母ちゃんに聞いたことのあるそれが、まさにあの時、やって来ようとしていたに違いない。魂を揺るがすようなあの恐怖を再び、悦子は味わいたいと思い始めた。


「なっちゃん、やっぱり神社行こうか」

錆びたブランコの鎖で茶色に染まった手の平からは、鉄臭がする。その手を繋いで、悦子と奈津は神社へと駆けていった。















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