青春

いつも通り、図書室の扉を開けてカウンターに向けて挨拶をした。
ただそれだけなのに。


「お前…何か悩んでんのか」
「……いえ、別に」


相変わらず素晴らしい観察眼をお持ちなようで。

この学校の図書委員会はちょっと特殊で、カウンターで当番をするのは私を含めた3人と顧問の川嶋先生だけである。といっても他の委員たちがサボってるわけじゃない。当番じゃなくても毎日図書室を訪れるので、よかったらやりましょうかなんて申し出たらいつの間にかこういう形態になっていた。残りの2人、田中くんと井藤さんもさすがに毎日ではないがよく訪れるため同じように申し出たらしい。

まぁ、一部の委員だけで当番をまわすなんて普通じゃありえないし、この人が顧問じゃなければ今の図書委員会は成り立っていなかっただろう。で、今日の当番がそのスゴい人なわけで。


「俺に嘘は通じねーぞ。この学校で1番お前のこと知ってんだ」


頬杖をついてじっと見上げられ、逃げられないと悟った私は早々に諦めて話すことにした。


「ウ○ーリーを一緒に探す関係って、何だと思います?」
「……お前それハデス先生に聞いただろ」


何故それを…!と視線で訴えたがあっさりスルー。教師が無視はどうかと思います。
結局どっちの質問にも答えてもらえず、私はもやもやしたまま午後の授業を受けたのだった。










「あ」
「こんにちは」


何故こうもタイミングが良いのだろう。

あの日から一度も会わなかった…いや、保健室で会ったけどこの人寝てたし。入学して初めて藤くんの下校中に遭遇してしまった。
驚いたけれどひとまず挨拶をする。校外で会うのは初めてで少し新鮮だ。そのせいか少し緊張する。


「家こっち?」
「はい。藤くんもですか?」
「まあな」


それっきりお互いに口は開かなかったけど何故か気まずくなかった。むしろ落ちつくような。穏やかな時間だった。空間までもが綺麗で不快にさせないなんて、凄いなぁイケメンって。


「名字って頭いいの?」
「普通です」
「へぇ意外。本ばっか読んでるから頭よさそうなのに」
「よく言われます」


本ばかり読んでいるせいで勉強していないのが現実である。まぁ、勉強は好きな方なので特別悪い点数を取ることはないけれど、特別良い点数を取ることもない。至って普通の成績だ。期待に添えなくて申し訳ないです。

チラッと横を盗み見すると端整な横顔が目に映る。藤くんは、私と居てつまらなくないのだろうか。私はハデス先生と比べてインパクトに欠けていると思うのだけれど。


「……何か悩んでんの」
「!」
「ハデスと川嶋があんたのことどうのこうのって…」


どうのこうのって。何一つ伝わってこないんですが。何言ったんだろう、あの二人。


「意味わかんなかったから忘れてたけど…会ってみりゃいつも以上に何か変だし」
「なるほど」
「変だ」


変らしい。

確かに少しモヤモヤしてたけれども。二度も言う必要はあったのか。本人に悪気はないみたいなのでさらっと流したはずなのに何故念を押すのだ。凄く気になるんですけど。
わざと凝視すれば目が合ったはずなのに、すぐに何事もなかったかのように逸らされた。


「言いたくねーならいいけど」
「いえ、大したことじゃないので…」
「つかその敬語やめれば?友達にまで敬語使ってっと早死にするぜ」
「え」
「…癖だなんて言わねーだろうな」
「え」


外でまで堅苦しいのは嫌なんだよ、と愚痴のように漏らした言葉の意味はわからない。でも、さっきの言葉はわかる。こんなにさらっと言われるとは思わなかったけれど。

いつの間にか立ち止まっていた私に藤くんは声をかけてくれたが、ぶっちゃけそれどころじゃない。そんなことどうでもいいのだ。


「おい、名字?」
「いいの?」
「…何が?」
「友達、なってもいいの?」


鞄の紐をぎゅっと握る。肩を並べていた藤くんは数歩前にいて、キョトンとした表情で私を見下ろしていた。それもすぐに顰め面に変わって、だんだん頬に赤みが差していく。釣られて私の頬もなんだか熱くなってきた気がする。どうやら感情は感染するらしい。


「あのなぁ…そんなこっぱずかしいこと聞くなっての!つか、俺が一方的に友達だと勘違いしてたみてーだろ!やめろ!」


……藤くんって、頭を掻く姿もイケメンだ。
照れてる姿もイケメンだ。
言ってる事もイケメンだ。


「ごめん」
「…別に」
「でも嬉しい。藤くんとともだ…ふごっ」
「お前一回黙れっ…!」


ふゅみまへん。


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