オバケ先生

「おかわりどうぞ…」


テーブルにことん、と置かれたお茶に小さく頭を下げる。ハデス先生は今日も腰が低い。優しい性格だから案外保健室の先生に向いてるのかもしれない。顔は置いといて。
私が今保健室を訪れているのもそのハデス先生が理由なんだけど、この先生にお願いされて断れる人はいるのか。藤くん以外で、いるのか。いないだろう。

あーお茶美味しい。


「名字さんが保健室に来てくれて嬉しいよ」


にやり、と笑った先生に背筋がぞくっとする。怖いのは顔だけだとわかっていても、この笑顔を向けられてビビってしまうのは仕方ない事だと思う。此処でお弁当を食べているあの3人はもう慣れてしまったんだろうか。藤くんは図太そうだから平気なのかもしれない。美作くんは人懐っこそうだ。アシタバくんは小柄なせいか繊細なイメージがあるんだけど……あまり話したことがないから、合っているかはよくわからない。


「今日はあの3人いないんですか?」
「うん…次の授業が体育なんだって。でも藤くんは奥のベッドで寝てるよ」


え、いたの。
なら静かにしないといけないな…。先生、大事な事はもっと早く言ってください。
きっと体調不良ではなくただのサボりなんだろうけど、睡眠の邪魔されたい人なんていないよね。それに王子の睡眠を邪魔するほど勇気は……おっと、王子と平民の関係は卒業したんだった。ウォーリーを探した仲だもんね。

…えっと、それって、どういう仲なんだろう…。


「探索隊…」
「どうかした?」


いや、違うよね。違う違う。首を振ればハデス先生は「悩みがあればいつでも言ってね」とにっこり笑った。にっこりと……ニタ…と…。オバケ先生と呼ばれる理由がよくわかる。私にも先生と仲良く話せる日が来るんだろうか。


「悩みは、特にないです」
「そっか。それはよかった…」


よかったって顔してないですよ先生。もしかして役に立ちたかったんだろうか…何か悩み…悩み…。脳内をぐるぐる巡らせて相談できそうな悩みを探し出す。……あ、さっきのあれがいいんじゃなかろうか。


「先生、悩みありました」
「っ!何かな…!?」
「ウ○ーリーを一緒に探す関係って、何ですか?」





「……ウ○ーリー?」
「はい」
「それは…友達じゃないの?」
「友達はもっと親しい関係だと…」


私と藤くんが友達だなんてそんなまさか。以前と比べればよく話すようにはなったけど…藤くんは男子だし、同性と同じように扱ってよいものか。うーん…友達って難しい。


「名字さんはその子とどうなりたい?」


どう、なりたい、か…?
そんなこと、考えたこともなかった。
きょとんとしている私に対し、ハデス先生は微笑ましそうに若いって良いなぁと呟いている。


「先生もまだまだ若いですよ」
「あはは、ありがとう」


でも白髪はどうかと思う。


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