図書だより

しとしと降る雨を横目に数冊の本をぱらぱらと捲る。
はて、あと1冊はどれにしようか。


「田中くんはどれ?」
「僕?うーん…これかな」


通りかかった田中くんに選んでもらった本はタイムスリップの物語だった。確かにこれは凄く面白かった。うんうん。でも好みが分かれそうなお話だったから最後まで決めかねてたんだよね。どうしよう。もう少し意見を聞きたいけれど私たち以外に図書委員は此処にいないし、先生は職員室だ。そもそも先生に頼まれていたものだから本人に聞くのもなんか違う気がする。だからといって常連さんに決めてもらうのもなぁ…と悩んでいると扉の開く音がした。


「いらっしゃい」


声を掛けると藤くんはきょとんとして入り口近くで立ち止まった。な、何かおかしいところでもあるんだろうか…辺りを見回しても藤くんが驚いた原因は分からないまま視線を戻す。田中くんはくすくす笑ってカウンターに戻って行った。
あ、そうだ。確か藤くんこの本の数冊読んでた気がする。


「藤くん」


ちょいちょいと手を動かすと藤くんは私の正面の椅子に腰かけた。


「何?」
「図書だより。新刊からオススメを選ぶんです。どれが面白かったですか?」


私の厳しい審査の後、残った4冊を差し出すと藤くんはチラッと私を見上げて、俺?と不思議そうにしていた。頷くと藤くんは少し考えてからある1冊を指差した。よし、これで決定。先生に渡すメモに書き込むと慌てた声が聞こえたので手を止める。と言ってももう書いちゃったんだけどね。


「これ図書だよりだろ?俺の一存で決めていいのか?」
「私と田中くんもこれが面白いと思いました」


つまり藤くんが決定打。スッキリした気持ちで数冊の本を新刊コーナーに戻して、1冊の大きい本を掴んでテーブルへと戻る。真ん中に置いて椅子の上に正座すると、藤くんは奇妙なものを見るような目で私を見ていた。その目、2回目です。
さてと、


「ウ○ーリーを探しましょう」
「…なんでだよ」


鈍いツッコミを受けてしまったけれど、私がこれを持ち出した理由は善意から来たもの。今日はハデス先生が午後から出張だと聞いていたので、もしかしたら図書室に来るかもと頭の隅で考えていた。つまり藤くんは暇なんだと思う。決定打になってくれたお礼も兼ねて、一緒に探しましょうという私なりの気遣いだった。本当なら構わず本読むんですよ。でもこないだもお世話になったし、ベッド借りちゃったし、王子だからと遠慮していたけれど少し慣れてきたし、美形は3日で飽きるってよく言うし。


「ふっ、変な奴」


まあ、藤くんの笑顔は3日じゃ飽きませんけどね。


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