ベリー

あの後、鏑木さんに相談してみるとやっぱり本人に直接言うのが1番らしい。放課後に言うことが決定したけれど、何て言えばいいのかは全く決まらなかった。おかげで午後の授業は勉強どころじゃなくてノートは真っ白なまま…(後で鏑木さんに借りよう…)

例えば『なんで美作くんの話ばっかりするの?』と聞いたとしよう。『美っちゃんのこと嫌いなの?』なんて悲しそうな顔をされたら私はどうすればいいんだ!
ただ愛されたいだけなのに、って…私も随分乙女になったなぁ…これも本好くんのおかげだ。


「で、美っちゃんがさー………名字さん?」
「…ん?」
「何か考え事?」
「!」


こ、これはチャンスじゃないか…!?
ででででも何て言うか決めてないんだった!えーとえーと、なんで美作くんの話しかしないの?ってのは有りなのかな…!?なんで美作くんの話ばっかりするの?よりはイイと思うんだけど…!


「名字さん?」
「な、なんで本好くんは…美作くんの話しかしないのかなぁー…って」
「…っ!」


うわああああ言っちゃったああああああ!!!
本好くんが少し困ってる…!これははぐらかすときの表情…!


「美っちゃんの話しかしてない、かなぁ…?」


えええええええまさか自覚ないの…!?
そんなに美作くんのことが…!?はっ…もしかしたらはぐらかしてるだけで自覚してるかも!いや、自覚していてほしい!アシタバくんのためにも!!

落ちつけ、落ちつけ私…!
考えられるのはこの3つ。



1.美作くんが好きすぎる
2.私<越えられない壁<美作くん
3.実は私のことが嫌い



…やばい、どれも否定できない。



「もしかして3ですか?」
「え、3って何」


しまった。馬鹿を晒してしまった。これ以上マイナス要素を与えてどうする。
言うなら今しかない。
かばんの紐をギュッと握って、私は勇気を振り絞った。

女は度胸!


「私のこと嫌いですか…?」


やばい!女は愛嬌だった!!

反応が怖くて顔が上げられずに自分の足元を見ていると、横に並んでいたはずの本好くんの足が見えなくなっていて、ああ私に呆れて帰っちゃったのかもなんて自嘲しながら振り返ってみると本好くんは私より少し後ろで立ち止まっていてその表情は戸惑っているようだった。

よかった。いた…。


「何で、そう思ったの…?」
「み、美作くんの話しかしないから…」


本好くんの美作くんへの気持ちはよく知ってる。俺のヒーローなんだってすごく嬉しそうに話していたから。そんな本好くんのことも大好きだったし勿論今でもそう。
でも毎日美作くんの話ばかりで、もしかして「俺には美っちゃんしかいらない」っていう遠回しの拒絶なのかもしれないなんて思ったりもして。

…うん、不安だったんだ。


「俺、自分のことしか考えてなかった」
「…え?」
「ずっと片思いしてた名字さんと付き合えるなんてホント夢みたいで、大事にしようと思ったんだ。でも俺友達いないから美っちゃんの話しかできなくてさ…話してるうちに『名字さんが美っちゃんに惚れたらどうしよう』って考えると、美っちゃんに会わせたくなくて。…矛盾してるよね」
「本好くん…」


やっと聞けた本好くんの気持ちに、じーんと胸が熱くなるのを感じた。
まさかこんなに考えてくれていたなんて…


「本好くんごめんね、私こそ自分のことしか考えてなかった…」
「名字さんは悪くないよ。俺が悪いんだ…」
「ち、違う!本好くんのこと信じてなかった私が悪いの!それに昼休みに、美作くんに勝手に会いに行ったんだ…ごめんね」
「え…そうなんだ…」


不安そうな表情を浮かべた本好くんに、私は慌てて「惚れてないからね!」と声をかけた。
私は美作くんのことを考える余裕がないほど本好くんが好きなんだから心配しなくてもいいのに…と考えてからふと気付く。

私、付き合い始めた日以来「好き」って、言ってない、ような…?


「あぁああ…!ダメじゃん私!」
「えっどうしたの?」
「ううん、やっぱり私が悪いの…」
「?」


本好くんは不思議そうに首を傾げていたけれど(すごく可愛い)再び私の横へと並んで歩き出した。へへ、嬉しい。

『相手に信じてほしいならまず自分が信じろ』っていうのと同じで、好きって言ってほしいなら好きって言わなきゃダメなんだ。気持ちを伝えなきゃ相手もわからないもんね。

簡単なのに大事なこと、すっかり忘れてたや。


「帰ろっか……名前」
「!…うん!」
「……名前は呼んでくれないの?」
「…こ、暦」
「……うん」
「好き…」
「……俺も好き」






***




「先日はありがとうございましたっ!」
「名前がお世話になりました」
「ケッ、イチャつきやがって…!」
「よ、よかったね名字さん…に、本好くん…」
「うんありがとう!(アシタバくんしっかり!)」
「なぁ本好、お前コイツの何処に惚れたの?」
「藤くんそれどういう意味!?冷麺にしてやろうか!」
「秘密。もし教えたらみんなが名前のこと好きになっちゃうかもしれないし。それと素麺がいいと思う」
「も、もう、暦ってば!」
「「(うぜー!)」」
「(お腹痛くなってきた…)」


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