ラズ

本好くんと両思いになって1週間。
私の気持ちは止まることなく大きくなっていくけれど、本好くんからはあまり愛とか、好きって言う気持ちが感じられないのが悩み。

でも最初から原因ははっきりしている。

会ったことのない彼の友人がいる(鏑木さん情報)という保健室の扉をガラッと開けた。 沙織先生が辞めてから初めて来る保健室だけど結構雰囲気が変わっていた。ウワサのハデス先生はお留守かな?…って私の目的は先生じゃない!


「美作くん!」
「!女子がオレを呼んでいる…!どうしたキミ!」


うわぁ、変な人…!
この人が美作くんか…本好くんの話通りの人だなぁ…!

口角がぴくっとひきつるのを感じながら話し続けた。


「初めまして、本好くんのこ、ここここ恋人の名字名前という者ですがっ…!」
「「なっ!?」」
「…マジかよ」


美作くんと小柄な子が声を揃えて驚いたと思えば、少し遅れてイケメンの驚く声も聞こえた。ええまあそりゃ驚くでしょうね!本好くんに対して『美っちゃんラブ』な印象しかないんでしょうから!私もそうでした!
そしてこの二人がきっとアシタバくんと藤くんだ。この二人も本好くんの話通りだなぁ。


「本好め、会わせてくれねーなんて変だと思えばこんなに可愛い子だったのかよ!」
「え、私も美作くんに会わせてもらえなかったんですけど」
「はぁああ!?それホントかよ名前ちゃん!」
「…名前ちゃん、だと!?まだ本好くんに名前呼んでもらったことないのに…!」


恥ずかしがって呼んでくれない本好くんも可愛いけどやっぱり恋人としては名前で呼んでほしいじゃない!?と熱弁すれば藤くんが、やっぱり変な女しかこんなとこ来ねーんだなとボソっと声を漏らしていた。オイコラ聞こえてるぞイケメン!ラーメンにしてやろうか!

って違う!そんなことを言いにきたわけじゃないのだ。


「こほん、本題に移ってもよろしいでしょうか」
「あ、あぁ…」


急に敬語で話し出した私の気迫のこもった表情に美作くんはどもっていた。
すうっと大きく息を吸い込んで、


「本好くんが美作くんの話しかしない件について!!」


勢いよくテーブルに拳を下ろすと思ったより力が入っていたせいかドンッと大きな音がした。あれ?軽く叩いたつもりだったんだけど…なんて言い訳しても無駄だろうか。か弱いアピールもうダメ?無理?やっちまった、本好くんの彼女としてせめて女の子のイメージは保っていたかったんだけど。保健室はシーンと静まり返っていて、その上アシタバくんは顔が真っ青だ。…多分アレの経験者なんだろうと勝手に解釈しておいた。


「あ、ありえねぇ…」
「同感です!会ったことのない美作くんについて詳しくなった私はどうすれば…!?何を望んでいるの本好くん…!私にはわからない…!1度会ってみたいと言っても必ずはぐらかされて…なので直接会いに来ました!アレはどうにかならないのかな美作くん!」
「お、オレに言われてもよぉ…つか、オレの前だとのろけしか話さないんだぜ!?」
「……は?」


今のは、空耳なんだろうか。

あの本好くんが、のろけだと…?
いやいやいやいやありえないありえない!それはない!絶対!


「ない!」
「断言できるほどひどいの…?」


本好くんのことを思い出してるんだろうか、顔がいまだに青いアシタバくんは少し震えていた。さすがにこの反応は異常じゃないか?トラウマレベルのビビり方なんだけど。アシタバくんは一体どんな体験をしたんだろう。機会があれば聞いてみたい…。


「ひどい!本好くんの情報より美作くんの情報の方が知ってるよ私!いらない!」
「いらないって言うなよ名前ちゃん…!」
「だから名前ー!!傷えぐらないでー!!」


ゼェ…ゼェ……な、なんか保健室に来てから精神力が削られてる気がする…!
この問題解決がこんなに難しいものだったなんて知らなかったよ私は!


「で…どうすればいいと思う…?」


私より付き合いの長い美作くんとついでにアシタバくん藤くんに訊いてみると、また保健室はシーンと静寂に包まれた。しかも空気は暗い。まるで難病を宣告されたかのような雰囲気が漂っている。それほど事は難題なんだと改めて思い知らされた。


「本好に直接訊けばいいだろ」
「藤くん、めんどくさがってない?」
「……でもそれしかねーだろ」


8割ぐらい図星だろこのイケメン!つけ麺にしてやろうか!


「藤くんの言う通りかも…僕たちには何も…」
「ごごごごごめん!アシタバくんごめん!も、もういいようん!そうだ飴あげる!是非もらってください、その、お詫びに…!」
「…ありがとう」


ポケットに入っている限りの飴(4つあった)を全てアシタバくんに捧げた。
機会があれば聞いてみたい、なんて言っていたけど私にアシタバくんの体験談を聞き終えられるとは思えない。軽率な発言でした。ごめんアシタバくん。

なんていうか、私今すごい人と付き合ってるんだね。
それでも本好くんのことを怖いと思わない辺り、本好くんにメロメロなのかもしれない。


「私は愛でいっぱいなのに…」
「…尊敬します」
「アシタバくんベッド行こう!休んだ方がいい!!」


これ以上保健室にいると(主にアシタバくんに)迷惑がかかるので教室へ戻ることにした。鏑木さんにも相談してみよう。





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