大人のひつじ |
※素直なおおかみの続き 「私は誰にでもムラムラしてるわけじゃないんです」 「…うん」 「アシタバくんにだけ!」 「…うん」 「女だって好きな男性にムラムラしたりします。ね、先生」 「それはわからないけど…」 「するんです。覚えておいてください」 「うん…」 アシタバくん目当てに保健室を訪れてみると丁度アシタバくんはトイレに行ったばかりらしく、帰ってくるまでハデス先生とお話することにしました。話題は勿論アシタバくんについてです。そこから段々ムラムラする話になり、今に至ります。 「どうすれば落ちてくれますかねぇ?私としてはアシタバくんは押しに弱いと思うのでガンガン攻めていこうと思ってますが」 「僕にはわからないな…ごめんね」 「いえ、構いませんよ。ハデス先生も押しに弱そうですね…私みたいな人に気を付けてくださいね」 「そんな物好きな人、滅多にいないと思うけどなぁ」 のん気に笑っている先生に私は小さくため息をついた。いくら顔が怖くてもそれに慣れてしまえば気になりませんし、むしろ手足が長くてかっこいいと思うんです。性格も優しいけれど芯がありそうで、うん。いい男。絶対私みたいな人に捕まると思います。女の勘です。 ここはひとつ、私が一肌脱いであげましょう。 テーブルを挟んだ向こうのソファに腰掛ける先生を確認してから、私は身を乗り出した。片膝をテーブルの上に乗せて、片手を頭の後ろに回す。 「…名字さん、近いから離れてもらえるかな」 「ダメです。先生は何もわかっていません」 「こんなところを教頭先生や才崎先生に見られでもしたら…」 困ったようにため息をつく先生の唇に指を当て、顔を近づける。 見られたらどうなるんです?先生は私を庇うんでしょう?だからダメなんですよ先生は。 「なら見つからなければいいんでしょう?」 「そういう意味じゃ…」 「ダメですよ、先生。さっきのような言い方じゃ、他人に見つからなければ構わないと言うのと一緒です。私のようなタイプの女はしつこいんですよ?はっきりノーと言わなければ、いずれ先生は流されて…」 ガラッ 「先生、茶くれ……あ」 「僕も飲も………」 「お前ら何固まっ……あ」 扉の方を見ると麓介、アシタバくん、美作くんがこっちを見て固まっていた。 見られてしまったけれど他の先生じゃなくてよかったですね先生! 「名前!お前先生にまで手出してんじゃねーよ!」 「手出してたわけじゃないよ、忠告です忠告!」 「んな格好ですんな。つかいい加減離してやれ」 「あ、すみません先生」 「いや…」 乗り出していた体を戻して、未だ固まったままのアシタバくんに近づいてギュッと抱きつく。 ああ癒されます…!やっぱりアシタバくんでないといけません。こんなに好みド真ん中の人は生涯アシタバくんだけです!断言します。私にはアシタバくんしかいません! 「誤解しないでくださいね!アシタバくんが1番ですから!」 「えっ…そうなんだ」 「…嫌ですか?」 一度離してからアシタバくんの首に腕を回す。向かい合ってジッと目を見ると、やっぱりアシタバくんは視線を逸らした。ダメです、隙ありすぎです。まあそんなところも可愛いんですけどねっ!唇を奪おうとしたその時、後ろから肩を掴まれてしまい結局失敗に終わった。またか麓介。 「麓介、空気を読みなさい」 「お前が読め。ここにいるのはお前とアシタバだけじゃねーよ」 「そこまでわかっているならアシタバくん以外出て行ってくれます?先生、ベッドお借りしますね」 「待て待て待て待て!」 左腕を麓介、右腕を美作くんに掴まれてしまった。何するんです!これじゃアシタバくんに近づけないよ!教室に戻るぞ、と引っ張られてしまったのでしょうがなく大人しくついていくことにしました。離してもらったらすぐにアシタバくんに抱きつくことにしよう。 「あ、先生。もう1つ忘れてました」 保健室から出る前にピタッと立ち止まって振り向くと、頭にはてなマークを浮かべた先生と目が合って、ニヤリと口角を上げる。 「他の女性の名前を出してはいけません。才崎先生、なんて言っちゃうと…ぺろりと頂かれちゃいますよ?」 「……肝に銘じておくよ」 「ふふ、では失礼します」 「また来てね」 「お誘いお上手ですね?」 そう言ってにっこり笑うと、麓介に乱暴に引っ張られて扉をピシャン!と閉められてしまった。冗談だからそんなに怒らなくてもいいのに。ギブミーアシタバくん…! |