ミスターアカネ

比良坂からヤンキーが転校してきたらしい。

焦った様子の親友ことオッキーの口にポッキーを入れると拳骨で殴られてしまった。ポキンと噛んでからあんた怖くないの!?と驚かれたので、拳骨で殴る女の方が怖いよと返すともう一発食らってしまった。やっぱオッキーの方が怖いよ。





「ちくしょお、先生め。なーにが軽いから女子一人でも大丈夫だ。めっちゃ重いよありえないよ先生なんて半径5メートルの穴に落ちてしまえ」


先生に頼まれたダンボールを抱え直す。腕にずっしりとある重みは、決して女子一人でらくらく持てるものではなかった。先生には私が、これをひょいっと持てるような怪力女に見えたんだろうか。やっぱり半径10メートルの穴に落ちてしまえ。
顔を顰めながらぶつぶつと独り言を言う私は相当怪しかったらしく、廊下にいる生徒たちは両端に寄っていてまるでバージンロードのようだった。なんでやねん。いつからうちのお父さんはダンボールになったんですか。


「うちのお父さんは人間ですぅ」


両手が塞がっているので膝でダンボールを蹴りあげるとさすが重いだけあってかなり固かった。くっそー憎きダンボールめ、私に抱えられてることを後悔しろ。ていうかこれ何入ってんの?本当に重いんだけど。
少し休憩しようとダンボールを床に置いてその前にしゃがむ。あ、ここど真ん中なんだった。邪魔になるかも、と振り返ってみるとみんなはまだ私を見ていた。いや、もうぶつぶつ呟いたりしないから注目するのやめてよ。
ていうか女子が重い荷物持って困ってるのに、助けてくれるような紳士はいないの?こういうのって恋が芽生えるのよ?今チャンスだよ何やってんの、ほれほれ。

それともなんだ、


「私の相手は嫌ってかァ…?」


上履きをキュッと鳴らすと誰かのヒィッ!という小さな悲鳴が聞こえた。ほんと、もう怖がるのはやめ「オイ」てよ私普通の女子だか……今声聞こえたよね。廊下のみんなが私の後ろを見てる気がする。もしかして獲物がかかった…!?さぁ濃い恋来い!
浮かれ気分で振り返るとなんとも派手な格好の不良っぽい人がいた。あれ、この子もしかして噂の1年のヤンキーボーイじゃない?


「……何処だ」
「はい?」
「…だから何処だ…ッ!」


ギリッと歯軋りして思いっきり私から目を逸らす彼に私は親近感を覚えた。…この子、もしかして方向音痴なんじゃ…いや転校してそんなに日にち経ってないらしいし、そんなに顔真っ赤にして恥ずかしがらなくていいんだよ少年。私もね、入学当初は迷いに迷って先生に保護されたことあるからね。先生爆笑だったよ。
この子が安心できるように肩にぽんと手を置いて、名付けて必殺頼れる先輩スマイルを向けた。


「えっとね?此処は廊下だよ!」


それで何処に行きたいの?と首を小さく傾げると、少年は蚊の鳴くような声で否定して私の足元にあったダンボールをひょいっと持ち上げてもう一度、何処だと言った。あぁ…なるほど、つまり、その…!


「運んでくれるの?」
「あぁ」


見た目によらずジェントルマン!怖がってたオッキーに教えてあげないと。うひ、と笑うと噂のヤンキーボーイもつられたのか、ぷっと小さく噴き出していた。


「教室までよろしくね」


こっちだよーと歩き出すと噂のヤンキーボーイが私の後ろについてくる。少し歩いてから振り返ってみると、何故か一定の距離が保たれていた。私がピタッと止まれば噂のヤンキーボーイも一定の距離を保ってピタッと止まる。何度かそれを繰り返すと噂のヤンキーボーイはとても不思議そうな顔をしていた。なんでもっと近くに来てくれないんだろう。

案内してるから前を歩いてもらうのは無理だけど、せめて横とか…もっと近くに来てくれないと、噂のヤンキーボーイをパシってる女だって勘違いされて変な噂流れちゃいそうだよ。私そんな危ない女になったつもりもなるつもりもないぞ。


「隣に来てくれないかな?」
「…は?」
「嫌ならいいけども」


運んでもらってる身だし、うん。無理強いはしないよ!私ってばすっげー良い先輩。
ふふん、と浮かれていると噂のヤンキーボーイは黙って隣に来てくれた。シャイなんだなぁこの子。

なんか、可愛いかも。


「あは、耳まで真っ赤」
「…ッ!」





そして噂のヤンキーをパシった女がいるという噂が流れ、思わずお茶を噴き出しオッキーに拳骨を食らうのは数日後の話。

ちくしょお、先生なんて半径15メートルの穴に落ちてしまえ。


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -