愛しの地味メン

「うわああああああん!いっくんのばかばか!草食!浮気者おおおお!地味っ!」
「……うん…」


子供のようにジタバタと暴れる私と、隣で目頭を押さえているいっくんは紛れもなく恋人同士だ。交際2か月のまだまだアツアツなカップル。先日、ウキウキワクワクドキドキなバレンタインを迎えたばかりだった。

恋人になって初めてのバレンタイン、少々浮かれるのも仕方ない。去年渡した片想いのチョコとは一味も二味も違う、両想いのチョコ!
それはもう「呪いか!」ってぐらい強い思いを込めて込めて込めまくった自信作だった。いっくんも美味しいって言ってくれた。ハッピーエンドを迎えたはずだった!

それなのに!それなのにいっくんは!!私という者がいながら!!鏑木さんにチョコを貰ったと言うのだ!ありえない!


「ひっく…う…ぐすっ…」
「………」


保健室のソファの上で丸くなってぐすんぐすん泣く姿はとても奇妙だと思う。一応自覚はしている。でもいいじゃん!気を利かせた(というか逃げた)美作たちは此処にいないし、先生は出張保健室中。何の問題もないと判断した上で泣きわめいている。

溢れ出す感情が止まらない。だって女の子だもん…!


「何で貰ったの?私のチョコじゃ満足できなかった?美味しくなかった?」
「ちがっ…!」
「鏑木さん美人で可愛いからいっくんなんて相手にされないと思ってたのにー!!」
「…う……」
「ぐすっ…そうやって言い返せないところも好き…」


複雑そうに眉をひそめる彼を横目に、こぼれそうな涙を拭う。
ぐすん、そんな顔も好きだよ。


「あのね、名前…」
「別れ話なら聞かないもんっ!」


縋るようにぎゅうっと抱きつくと、いっくんは少しアタフタしながら困ったように私の名前を呼ぶ。それでもここで離したらダメなような気がして、私は力を込めた。絶対に離さない、別れないぞと。


「………不安にさせてごめんね」
「っん」


壊れ物を扱うように、そっと、背中に腕を回してくれる。

恥ずかしがり屋だから、二人っきりのときでも滅多にこうしてくれない。そんないっくんも私は大好きで、いっくんへの愛ならどんな女の子にも負けたくなかった。

でも、いっくんには迷惑だったのかなぁ…?


「別れ話じゃないから、少し聞いて…?」
「………うん」

「鏑木さんは、その、ここだけの話…

ハデス先生が好きなんだ」



「……………ハデス先生?」


予想外の言葉にぽかんとした私にいっくんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。こういうとき、伊達にお兄ちゃんやってないなぁと思う。こんなお兄ちゃんがいる頼子ちゃんが羨ましいなぁ。

…じゃなくて、鏑木さんってハデス先生が好きなの…!?じゃあいっくんにあげたチョコは…!?
じっと見上げるといっくんは困ったように頬を掻いた。


「僕だけじゃなくて藤くんと美作くんも貰ったし、結局いろいろあって食べられなかったんだ…」
「そ、なの…?」
「うん。だから、名前だけ」


頬を赤くしてはにかむいっくんに私はきゅううんと胸が苦しくなって、ぎゅうっと抱きつく力を強めれば、うぐっ!?と苦しそうな声が聞こえたけど構わず力を込めた。

ごめんねいっくん、ひどいこと言ってごめんね!勘違いしてごめんね!
チビでも草食でも!非力でも!


「名前、ちょっと力緩めてほし…っ!」
「やだ!」
「ぐふっ!?」


地味でも大好き!!



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リク:明日葉くんで甘夢

あ…ま……?



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