昼休み

「美ーっちゃん」
「おっ、名前じゃねーか!」


騒がしい昼休み。扉から保健室を覗く私に気付いた美っちゃんがニカッと笑って片手を上げた。ここって一人じゃ入りづらいから(理由はウワサのオバケ先生)美っちゃん達がいてくれて助かった…!もし先生しかいなかったら…と思うと正直ぞっとする。先生ゴメン。 ソファにいる美っちゃんの隣に座ると、前のテーブルにコトンとコップが置かれた。


「いらっしゃい…」
「っうごぁ!…び、ビックリした…」
「俺はお前にビックリしたぜ」


まあ先生を見たら誰だってビビるけどよ、と美っちゃんはケラケラと笑っているが、隣に立っている先生はとても落ち込んでいるように見える。
私が言えることではないけど、それ以上笑って傷をえぐるのはやめよう…ね。


「先生すみません。もう大丈夫なんで…」
「そう…気にしないで」
「先生こそ気にしないでください…って私が言うのもなんですけど!えっとほら、慣れたら平気ですから!多分!」


必死にフォローするけれど、落ち込む先生の肩は下がる一方。どうしよう、と戸惑いながら私は精一杯励まし続けた。
だって先生の悲しむ顔なんて見たくない…じゃん!怖い…じゃん!


「せ、先生!大丈夫です!だって先生優しいじゃないですか!こうやってお茶だしてくれるし!怖い顔を好きだって言ってくれる人も絶対いますから!そ、それにっ」
「名前ストップ!…もう何も言わねー方が、いい…」
「………」


私のフォローはマイナスにしかならなかったらしい。私のばか…!
ずーんと落ち込んでいると美っちゃんは何も言わずに頭をぽんぽんと撫でてくれた。
美っちゃんって女好きでなければ少しはモテたと思うんだけど、私だけかな?


「えっと、大丈夫…?」


きっと本好くんならわかってくれるだろうと確信していると、知らない人の声が聞こえたので顔を上げると向かいのソファに小柄な男の子とイケメンな男の子が座っていた。確かクラスメイトで美っちゃんの友達の、


「アシタくんと、ふみくん?」
「アシタバだよ…」
「…藤」
「ごめんなさい…」


やっぱりもう喋らない方がいいのかもしれない。
気まずくなってそーっと視線を逸らすとアシタバくんは「気にしないでね」と苦笑いしていたが、その隣で何も言わない藤くんはもう見れない。それにイケメンは顔が整ってるから怒ると怖いんだ、と考えながら先生が淹れてくれたお茶に手を伸ばした。


「名前は何しにきたんだ?」
「あ、そうそう。安田知らない?教室にいないし、メールしても返事返ってこなくて」
「あいつなら熱子がどうとか言って早退したぞ」
「…またか」


何回目だよ、と力が抜けた体でソファにもたれると、箸をくわえている藤くんとバチッと目が合った。……もう怒ってなさそう?


「美作に女友達がいたのか…信じらんねー」
「んだと藤ゴルァ!」
「落ちついて美っちゃん…!」


今にも胸倉を掴みだしそうな美っちゃんを押さえながら向かいのソファを見た。


「安田繋がりなの。私と安田が幼なじみで、美っちゃんと安田も幼なじみなんだ」
「? 美作くんと……名前ちゃん、は幼なじみじゃないの?」
「うん。知り合ったのは結構最近なんだ」
「へえ…」
「ふーん」


ビックリしているアシタバくんに、興味なさそうな藤くん。なんかこの3人が一緒にいるってすごいなぁ。きっとアシタバくんがいなければ言い合いばっかりなんだろう。ていうか藤くんのお弁当がすごい。豪華すぎる。……頼んでみようかな。


「藤くん!」
「何?」
「その卵焼き1つくれない?」
「…何で?」
「美味しそうだから!あとお弁当忘れた」


それで安田を探してたのか、と美っちゃんが言っているがその通りだ。
お財布は持ってないし、友達に貰うのも気が引ける。だから安田に分けてもらおうと思ってたのに、ヤツは熱子のために早退したという。

いじめなの?私のお腹に対するいじめなの?
やばい、お弁当のことを考えたらお腹すいてきた。


「……ほらよ」


卵焼きを掴んで差し出してくれたお箸と、藤くんを交互に見る。
まじ?いいの?


「いらねーなら食うぞ」
「あっ、だめ!」


引っ込めようとしていた藤くんの腕を掴んでぱくっと卵焼きを口に入れた。
途端、口に広がる素ん晴らしい味。……なにこれ、美味しそうなのは見た目だけじゃないのか。さすがイケメンのお弁当…恐るべし。


「「なっ…」」
「ブッ!名前おまえ…!」
「え、何?」


もぐもぐ味わっていると3人が唖然とした顔でこっちを見ていた。なんか変なことしたっけ。
急に藤くんがお箸を引っ込めようとするから思わず腕を掴んで、それで…お箸、を……あはは。やばい、もしこんなところを女子に見られていたら…!と慌てて辺りを見渡したが、私以外に女子はいないみたいだった。……よ、よかった。ハデス先生がいてくれてよかった…!!


「藤くんお箸ごめん。洗ってこようか?」
「…別にいい」
「よくねーよ藤ィ!なーに俺の可愛い名前と間接キッスしてんだ!」
「俺は何もしてねーよ!あっちだろ!」
「お、おちついて2人とも…!」
「そうだよ、美っちゃん!私が勝手にしちゃったんだから。それよりすっごく美味しかったんだけど…!」
「なっ!美味かっただと!?藤テメェ!」
「卵焼きがだよ」


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