ふたりブランコ

何度見ても同じ画面で何も変わらない。ただ時間だけが過ぎていった。
画面に映し出されているのは一通のメール。安田からだった。


《話したいことあるから家来い》


返事できないまま家の近所にある公園のブランコで1時間が過ぎて少し肌寒くなってきた。風邪ぶり返したら怒られちゃうなぁ。
深くため息をつくとギィ、とブランコが軋む音がした。あー…行きたくない、なぁ。

怖い、なぁ。


持っていた携帯がぶるぶると震えて一件の新着メールを知らせた。
心臓がばくばくしてる。恐る恐るカチ、カチ、とボタンを押すとやっぱり安田からだった。


《来ないなら俺が行く》


「…は?」


揺らしていたブランコを止めて携帯を見つめながら握りしめる。
お、俺が行くって…


「来るなよ…!」
「っなんで?」


降ってきた声に思考が停止した。
目の前には見覚えのあるヤツの姿があって、ゼェゼェと荒い息遣いのまま逃げ場をなくすように私が乗っているブランコの鎖をかしゃんと掴んだ。


「俺に、会いたく、なかった?…っはぁ」
「や、すだ…」


会いたくなかったわけじゃない。
怖かった。

フラれるのが、嫌だった。


「俺は、会いたかった。名前に」
「え…」


俯いていた顔を上げると安田は優しく笑っていて。
私にはその笑顔の理由がわからなかったけど、いつもと変わらない安田の笑顔に少し安心した。


「美作に聞いたと思うけど、俺、桃原に告白されたんだ」
「……うん」


よかったね、なんて言えずにそっと視線を落とすと、目逸らすな、と両手で頬を掴まれてしまった。
なんてこったい、今日の安田はいじわるだ。


「断った」
「……え?」
「だーかーら!断った!」


幻聴だろうか。
ぽかんとしている私に、安田はニッと笑う。


「俺には名前がいるから」


すうっと耳に入ってきた言葉にじわり、目が熱くなる。持っていた携帯が私の手のひらから落ちた。
安田は頬を離して、小さく震える私をぎゅっと抱きしめた。


「安、田…?」
「俺は名前じゃねーと、ダメなんだ」


そっと背中に腕を回すと、抱きしめる力が強くなった。
溢れた涙が安田のシャツに染みる。


「俺さ、」
「うん…っ」
「俺、名前が好きだ」
「っ…うん…!」


この時私は過去最高の幸せを、


「俺とずっと、一緒にいてください」
「はい…っ!」


二人分の幸せを、感じた。


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