理想と現実

「はぁっ!愛されたい!」


ソファにごろんと寝転がった私にアシタバくんは苦笑いした。何故かハデス先生は周りでおろおろしていて、ちょっと可愛いかも、なんて思えるまでに慣れたので初対面の時みたいに怖がることもなくなった。


「名前さん、スカート気をつけてね…!」
「…はぁ、先生は初心だなぁ。安田基準に考えると涙出てくる」
「安田くんといるとヒヤヒヤして仕方ないよ…」
「アシタバくんも初心だなぁ。なんか安心した。君たち国宝だよ…!」
「ははは…」


この2人といると心が真っ白になって澄みきりそう。
それにアシタバくんって小動物みたいで可愛いなぁ。私にはそんな要素ないから羨ましい。女の私より可愛いんじゃないかな。こんな女の子になりたい、なんて言ったら男の子のアシタバくんに失礼だろうから心の中にしまっておくけど、ぶっちゃけなりたい。
じーっと見てしまっていたせいかアシタバくんは身を縮めて目を泳がせていた。


「ずるい」
「…え?」
「アシタバくん、可愛い」
「っええ!?」
「名前さん、男の子に可愛いはダメだよ」
「可愛いもんは可愛いんですよ、先生!」


がばっと起き上がるとハデス先生はまたおろおろしていた。あ、もしかして下着見えちゃったのかな…まぁ先生だからいいや。


………。


「いやよくないよくない!全然よくない!あぁ…安田色に染まってきちゃってるかもしれない…ダメダメ、女の子らしく!」
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないみたいです。私はもう清楚系には戻れない…!」
「名前ちゃんは清楚だと思う…よ?」
「アシタバくん優しい…!泣く!」
「な、泣かないで!」


ごめん冗談です泣かないです!アシタバくんこそ泣きそうな顔しないで!
ごめんねと謝っているとカーテンが開く音がした。あれ、誰か寝てたの?


「お前らうるさい」
「あっごめん藤くん…!」
「なんだ藤くんか」


病人じゃなくてよかった…。
ふう、と息をつくと私の隣にドカッと座った藤くんは眉を顰めた。


「俺じゃ嫌なのかよ」
「とーっても健康な藤くんでよかったよ」


にっこり笑うと藤くんは口元を引きつらせて先生茶くれ、と話を逸らした。先生は嬉しそうに今淹れるね、なんて言ってるけど先生それでいいんですか。


「そういえば美っちゃんは?」
「安田がどうのこうの言ってたな」
「…安田?」


ヤツが何かしたんだろうか。思い当たる節はあるよね。やっぱりエロリストだし…うん。変なことじゃないといいけど、と思い巡らせているとバタバタと大きな足音の後に勢いよく保健室の扉が開いた。


「名前っ!!」
「美っちゃん?」


慌てて私の元へとやってくる美っちゃんに、私は首を傾げる。何かあったんだろうか。息を整えてる美っちゃんの背中を擦って次の言葉を待った。


「み、美作くん何かあったの?」
「アシタバ…っそれがよ…名前、よーく聞けよ」
「うん?」


そして耳に入ってきた言葉に私は言葉をなくした。


「安田が、告白された」


もうダメかもしれない。


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