揺れる若葉

「手紙で気付いたと思うけど、名前さんのことが好きなんだ…」
「…ごめんなさい」


ぐっと深く頭を下げる。

手紙はいまだヤツの手元にあるけど、内容はわかっていたので待たせるわけにもいかず美術室前に来てみればイケメンが立っていた。あ、ありえねえ…と立ちすくんでいると彼の方から声をかけてくれたのでどうやら私で間違いないらしい。ぶっちゃけ趣味悪いね、佐枝くん。


「もしかして安田と付き合ってる?」
「なっ…」


何を言い出すんだこの人は…!


「目で追ってるみたいだったから、好きなのかなって…」
「…私ってそんなにわかりやすいかな」
「ははっ、俺は名前さんのこといつも見てたから」
「…っ!」
「そんな顔されると期待しちゃうよ」


”顔真っ赤だけど”


頬に手を当ててみると確かに熱かった。
だ、誰だっていつも見てたなんて言われたらドキドキするじゃん…!(ストーカーは別だけど)それに佐枝くんはイケメンだし、好きじゃなくてもドキドキしてしまう。
……もし安田がいなければOKしてたかもしれない。それくらい良い人だった。



佐枝くんと別れてから玄関へと向かう。頭の中をぐるぐる駆け巡るのは先ほどのこと。
「佐枝くんにはもっといい人がいるよ」
「…うん、ありがとう」
最後に見た彼の笑顔はとても苦しそうで、余計なことを言ってしまったかもしれないと私はかなり後悔した。
もし私が安田にフラれたとき同じことを言われたらつらくて泣いてしまう。


「無神経でごめんね、佐枝くん…」
「佐枝が何?」
「ひっ!?」


耳元にふっと息がかかって体が硬直する。
なんかぞわぁあってした…!頭だけギギギと横に向けると、むっとした顔の安田がいて私は再び硬直した。か、顔がっ近い…!


「行くなって言ったのに勝手に行きやがって…ちゃんとハッキリ断ったんだろうな…!?」
「や、安田…近いっ!」
「ダメ。断ったって言うまで離さねえ」
「…っ!」


後ろからすっぽりと包まれてしまった。これじゃ赤くなった顔も隠せない…!急にどうしたんだろう、今までこんなことなかったのに…いきなりこんな…抱きしめるとか…!風邪ひいたときだってそう…いつもより優しかったし…。私が安田のこと好きだって知ってるくせに、なんでこんな期待しちゃうようなことするの?

優しくされたら、離れたくなくなっちゃうのに。


「名前」
「………」


ここで言ったら、離されたら、いつも通りの幼なじみに戻る。
一緒にいれるだけで幸せなのに。


「…まさかお前、OKしたなんてことは…!」
「……ばーか」


それ以上を求めてしまうなんて。


「欲張りでごめんね」
「……名前?」
「もう少しだけ、待って」


今だけはこのままで。


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