手紙

それは突然舞い込んできた非日常。


「………」


上履きの上に置かれた異様な存在感を放つそれ。
シンプルな白の封筒の表には『名前さんへ』裏には『2-B 佐枝』と書かれてある。
えーと、つまりその、これは…。


「おい名前!置いてくなんてひでーよ!……って、ラブレター!?」
「うぎゃあ!?」


スッと後ろからそれを取られて、振り向くと置いていったはずの安田がいた。コイツ寝坊してたはずじゃ…ってオイ!なんで封筒開けてんの!


「返してよ安田!今時ラブレターなんかありえないよ!きっとアレだよ、果たし状とかそういう類の。だから返して!」
「果たし状の方がありえねーよ!それにそんなモン渡されるようなことしてねーだろ?」
「まぁそうだけど…いやいやだから読むなって!」
「えーっとなになに、放課後に美術室前で待ってます?なんで美術室前なんだよ…」
「知らないよ…もう」


安田から手紙を取り返そうとしても手を伸ばされてしまっては届かない。なんで好きな人にラブレター読まれなきゃいけないんだ。いや…まだラブレターと決まったわけじゃないし!きっとアレだよ!


「あんた藤くんに馴れ馴れしいんですけどーマジありえないみたいなー!とか、そういうのだよ!」
「お前どんだけネガティブなんだよ!」
「だって私にラブレターなんてありえないじゃん」


パッとしてなくて地味だし、顔も体型も普通だし、エロなじみとか言われるし…うわあプラス要素全然ない。一生独り身だったらどうしよう…安田が貰ってくれるって言ってたけど…でもそれって安田にとっては最終手段なんだよね…嫌々結婚なんてしてほしくないし…!

安田は私のことどう思ってるんだろう。


「名前さぁ、もっと自分に自信持てよ」
「そんなこと言われても…花巻さんみたいに可愛ければなぁ…」
「バーカ、それ以上可愛くなってどうすんだ」


不意にコツンと頭を小突かれる。


「は、……は!?」
「これ貰ってくぜ」
「え、ちょ、なんで?」
「ラブレターなんてお前には100年早い!」


ビシッと指をさして靴箱から離れていく後ろ姿にあたふたする。待て待て置いていくな!ていうかそれ返してよ!


「待ってよまだ履き替えてないんだから!」
「ったく名前はとろいな」


なんて言いながらヤツは足を止める。なんだかんだで待ってくれるんだから優しい、よね。ふとしたことでキュンとさせられるんだから油断できない。さっきだってか、可愛い…とか言ってくれたし……ううう、好きだー!


「名前ー?」
「今行くー!」


…言えないけど。


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