教科書が入った重たい机を持ち上げる。
さっき引いたクジには18と書かれており、黒板で18を探したところ新しい席はどうやら窓際らしい。
早々と運んだ後、依然騒がしい教室を見渡した。
喜んでいる者、落胆している者、席替えではよくある光景だ。
見事ド真中を当てたらしい友達には頑張れよと口パクで伝えておいた。私ってば優しい。


がたん、と近くで音が鳴って振り返ってみると銀色の髪が目に入った。


ふむ、後ろは仁王か。
うるさいタイプじゃないし、なかなかいい席かも。



――ていうのは、ただの勘違いでした。







4限目ってのはなんでこんなにつらいんだろうか。

私が思うに、空腹感と暖かくなってきた日差しのせいだ。
最悪にも今日の4限は数学。いっちばん嫌いな教科。
理解はできないけどせめてノートだけでも、と頑張っていた手もだんだんスローになり、5分経たないうちに私はシャーペンを手放し夢の中へと旅立った。





もぞもぞ





ふと背中に感じる違和感。





もぞもぞ―――ばちんっ


「痛っ!何し…」


重い体を起こして後ろに振り返ると仁王は「あ、」と声を漏らした後、前を指差した。
背中を擦りながら前を向くと、こっちをジッと見ている先生。


「名字、何かわからない問題でもあったのか」
「いっいえ、何でもありません!」
「ならしっかりと前を向いて授業を受けるように」
「…はい」


先生が黒板に問題を書き始めたのを見て小さくため息をつく。

なんで私が怒られるんだろう。
ていうかさっきの違和感と衝撃は何なんだろう。


首を傾げながら、もう一度後ろに振り返ると仁王はすぐに「すまん」と謝ってきたけど、全く悪いと思ってなさそうな笑みを浮かべている。…それを許してしまう私も私だが。
先生にバレないように小声で何?と訊くと仁王は、


「ブラ紐が透けとる」


と私の背中を指差した。


「………は?」


自分の聞き間違いだろうか。耳がおかしいのだろうか。それとも仁王がおかしいのだろうか。
ぐるぐる考えた後、出した答えは”ワンモア”だった。


「だからブラ紐が透けとうよ」
「ああそれは分かったけど他は?…それだけ?」
「それだけとは何じゃ、男には大事な話ぜよ」


せっかく人が親切に教えてやったのに!とでも言いたそうな顔で仁王はこっちを見てきたけど、そう言われても私女だし。


「夏服だからね」
「キャミソールかTシャツ着んしゃい」
「暑いよ!」


チラッと前を見ると先生とまた目が合ってしまったので、変な仁王は放っといて前を向くことにした。成績下がったらどうしてくれるんだ。
しかし奴は先生なんてお構いなしにしつこく私に話しかけてくきた。


「明日から着てこんといたずらするぜよ」
「白はダメじゃ、透ける」
「なぁ名字聞いとるんか?無視なんてひどいぜよ」


ええいうるさい!聞こえてるわ!話なら昼休みに聞くっつの!あと5分だし我慢しろ!
肘で後ろの机をごん!と鳴らすと、私の気持ちが通じたのか仁王は黙った。

やっと落ち着ける、そう思って再びシャーペンを握った時だった。


「好きな奴の下着が透けとるの見て、平気なわけないじゃろ」


ぼそっと呟かれた声に思考が停止した。


いま、
何て、
言った?


無理矢理脳内でリピートさせてから数十秒後でやっと理解した。
途端に顔に熱が集まってくるのが分かり、がたん!と大きな音を立てて椅子から転げ落ちた。
い、痛い!けど私はそれどころではない。
私は授業中だという事もすっかり忘れて「仁王!!」と叫んだ。


「あんた今好…っ!」
「あ、」


奴は前を指差す。
あれなんかデジャブ?と思わず冷静になりながら、前を見た。


「名字、昼休みに職員室へ来るように」
「…はい」


どうやら勉強運だけ最悪らしい。


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