06

友達に誘われてライブへ行くことになった。運よくチケットは取れたが同行者が来れなくなったらしい。
暇をしていたのでこのお誘いは嬉しい。ただ、このライブは倍率が凄かったと聞いてファンの皆様に少し申し訳ないと思う。そう伝えれば「ファンの分まであんたが楽しめば問題ない!」と笑ってチケットを手渡された。

ライブ当日。会場の熱気にあてられ、無知の私がサイリウムをぶんぶん振り回すほどに盛り上がるライブだった。すごい、さすがプロ…客を選ばない。
この大きな会場のきらびやかなステージに立つのは友達の大好きなカイトがいる「3Majesty」、そして同じ事務所の「X.I.P.」。
この2つのグループはデビュー以来、共に競い合い、共に成長し、この大きな舞台に立っているらしい。

ところであの、なんだかあの人たち会ったことある気がするんですけど、私の気のせい……かな?
うん、シン推しの甘党イケメンさんとか山菜そばのイケメンさんとか雨宿りのイケメンさんとか神崎さんっぽい人がいる気がするけど、いやいやそんなまさかねー!そんな偶然あるわけないし!それに“あの”神崎さんがアイドルなわけ、


「かかって来いっ!!! 腹から声出せ!」


あっ、神崎さんですね……!!コンニチハ……!!





**********





「えっ、名前さん知らなかったんですか? 皆さんと仲良いからてっきり知ってるものだとばかり…」
「……シンと似てるなぁとは思ってたんですが、まさか本物だとは思わなくて…」


がっくりうなだれた姿に苦笑いをとばす新マスター。お店が落ち着いていたので彼らについて質問してみれば、新マスターはわざわざ休憩を貰ってくれたらしく、私の向かいに座って話を聞いてくれた。
なんだか申し訳ない気持ちになったがあのライブ以来、私の頭はごちゃごちゃしていて、とにかく事情を知っていそうな新マスターに話を聞いてもらいたかった。
ライブに誘ってくれた友達には言えそうもない。バレたときを想像して思わず腕を擦る。怖い……!


「事務所からうちの店が近くて、いつもご贔屓にしてもらってるんです」
「あの人たち変装とかしてませんよね?ファンの方がお店で騒いだりなんてことは…?」
「それが一度もないんです。お店の前で声を掛けられているところを見かけたことはありますが、中では一度も……きっと彼らが素敵な方たちだから、ついてくる皆さんも素敵な方たちなんだと思います」


ジャスミン茶を一口含んでほっと息を吐く。
新マスターさんの表情はとてもやさしくて温かくて、彼らのことを思い出しているのかたまに笑みをこぼしている。
きっと彼らはこのお店が大好きで、その気持ちを尊重してくれるファンがそっとしておいてくれるんだろう。……いいなぁ、こういうの。


「きっと新マスターが素敵な料理を作るから、素敵なお客さんが来てくれるんですよ」
「ふふっ、そうだといいな。……あっ」
「?」


嬉しそうにはにかんだ新マスター(かわいい)は突然大きな声を出した。目線は私のちょうど後ろ辺りで、つられて振り返ろうとすれば突然視界が真っ暗になる。そして温かい手の感触。

こ、これはベタな「だーれだっ」てヤツ…!?


「だーれだっ」
「いらっしゃい、慎……あっ、えーっと、」
「うん、いらっしゃいました。今日のオススメスイーツは?」
「今日のオススメはシュークリームだよ!」
「じゃあそれで♪」


頭上で会話しないでほしい……。

誰だ、なんて言われたが、新マスターさんが言いかけた“シン”という言葉。そしてスイーツが好きという言葉。それだけあれば該当されるのは一人しかいない。
そもそもこの人に隠す気はあるの…!? さっきまで話していた悩みの種とこんなすぐに遭遇するなんて思ってもみなかった……!

おそるおそる目を隠す手に触れてみれば、その手はびくっと震える。


「…シン?」


確信はあったがアイドルと分かった以上勇気が出ない。私の答えを聞いたシンの嬉しそうな笑い声が聞こえる。そしてゆっくりと手が離れていき、どきどきする胸を抑えつつ振り返ると、


「………」
「………」


…知らない人がいた。


「ふたりとも固まってる。作戦成功〜!」
「…シン君がやれって言うから!」
「うちのシンとカイトがすまない」
「俺も悪いのかよ…っ!」


シンじゃない…!? いやシンもいるけど…!!
な、なにが起こっているの? ちょっとわかりません……!


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