05

「慎之介さんお待ち遠さま。スーパージャンボパフェです」
「わあ、おいしそう。いただきます♪」


甘いものが食べたい気分だったが隣を見てすぐにやめた。甘い良い匂いが漂ってきていると思えば隣のテーブルではめちゃくちゃ大きいパフェを食べているイケメンの姿。
見てるだけでお腹いっぱい。胸やけしそうだ…。

何食べようかな。あ、でもやっぱ甘いものが食べたいなぁ。
このホワイトマシュマロケーキって新作?私、新作とか期間限定に弱いんだよね…!


「ホワイトマシュマロケーキ……ホワイトショコラレアチーズケーキ……ああでもフレンチトーストもいいなぁ」
「うんうん」
「旬の大粒イチゴのショートケーキも捨てがたいし、フォンダンショコラも……何でこのお店ってスイーツの取り扱いが多いんだろう、選べない」
「わかるなぁ」


……。あれ?

ふと違和感に気が付き、メニューから顔をあげると向かいの席にイケメンが座っていた。彼の前には大きなパフェ。
い、いつの間に……それよりこの人って確かお隣の…?


「僕も甘いものだーいすきだから、選べなくていつも困っちゃう」
「……、はい」
「僕のオススメはホワイトマシュマロケーキ。僕だけの味」


あまーい笑顔を浮かべてあまーいものを薦めてくる。
僕だけの味というのはつまり僕以外は食べちゃダメな味という意味なんでしょうか。いや、でもメニューにあるし…!
オススメなら尚更食べてみたいんだけど、いいかな。

何よりこのイケメン、ちょっとタイプだし…!

なんて考えつつまじまじと見つめてしまっていたらしく。


「? 僕の顔に何かついてる?」
「あっ、いえ!なななにも」
「そう?」


対応もイケメンだ……!

うっとりしてまた見つめてしまいそうになり、ダメだダメだと気を引き締めてメニューに視線を落とした。
うん、やっぱりホワイトマシュマロケーキかな!

新マスターさんに注文し、待ってる間スマホをチェックする。


「あれ。それカイト?」


パフェを食べる手を止めて私のスマホを指すイケメン。

ちなみに待ち受けは友達の好きなアイドルで、待ち受けにこだわりはないから以前変えられてからほったらかしていれば2ヶ月も経っていた。

なんか意外だなぁ…。
今やテレビで見ない日はないくらい人気のアイドルだから、男性が知っていてもおかしくはない。でもなんとなくこの人はアイドルに疎そうな気がしたから。


「はい。友達の推しメン君です」
「なんだ、君のじゃないんだ。安心した」
「え?」
「カイトじゃないなら霧島君?オススメはシンだけど推してみない?」
「え?え?いや…」
「シンはダメ?」
「……シン好きなんですか?」


質問の嵐に戸惑ったがなんとか質問を返してみれば、彼はキョトンとした後楽しそうに笑って「さぁ?」と答えた。

えっと、この人の推しメンがシンっていう話の流れだった気がするんだけれども…?
よく見れば外見も似てるし、ファンだから真似してるとかそういう感じだとばかり。


「でもシンと似てますよね。その明るい茶髪って言うんですかね…ミルクたっぷりのミルクティ色の髪とか、」
「わあ、おいしそうだね」
「あははっ。自分の事なのに!」


美味しそうって!
おかしくてつい噴き出した。ぱあっと顔色を明るくさせて、子供のように喜ぶ姿は頬が緩まずにはいられない。

イケメンなのに可愛いってずるいなぁ……!
そうこうしてる間にホワイトマシュマロケーキが届いて、手を合わせてから一口。いただきます。


「美味しい……!」
「でしょ?」
「はい!すっごく!」


オススメを信じてよかったー!
いや、元よりこの店に美味しくない料理なんてないのは知ってたけれど!

マスターが新マスターさんに変わってから、品数も増えて味だけでなくオシャレな料理も増えた。きっとこのホワイトマシュマロケーキも新マスターさんが考えたものなんだろうなぁ。
可愛くて料理もできるって、無敵なんですが……!

あまりの美味しさに黙々と食べ進めていたけれど、そういえばイケメンの前だったことを思い出した。
がっついてるところを見られてしまった…!うわぁ引かれてないかな……!
少し恥ずかしくなって一旦手を止め、勇気を出して見上げてみればすぐにかち合う視線。


「ん?」
「……!」


わ、わぁー……

しかも頬杖をついて、微笑ましそうに、まるで先程からずっと見られていたかのような姿に逃げ出したくなってしまう。穴があったら入りたい気分です…!

それであの、目が合ってからずっと逸らされないんだけれど、もしかしてクリームがついてるとか?
指で口元を拭ってみたが何もつかない。


「あの、私の顔に何かついてますか…?」


別のところかな?
そうだったら恥ずかしいな…そんなところイケメンに見られたくな、……いや、既にがっついているところを見られちゃったし繕ってももう遅いね!

するとやっぱり肯定する声が聞こえて、手鏡を取り出そうとした。

ら。


「ついてるよ。可愛い目と、可愛い鼻と、可愛い口が」


……聞き間違い、かな。
いつからそんな恥ずかしい言葉に変換してしまう耳になったんだろう?と首をひねると、イケメンはそのすらっとした指で自分の頬を指す。


「ほっぺも可愛いから確認してみて?」


聞き間違いじゃなかった……!!!
あまりの衝撃に私は黙って既に取り出していた手鏡をそっとカバンに戻し、自分の頬を拭えばクリームがついた。

甘い、ものすごく甘い。
この人甘すぎる…!!

恥ずかしくて顔があげられない。頬が熱い。


「あれ。照れちゃった?」
「…あんなこと言われると思いませんでした」
「ごめんね。全然気付いてくれないからちょっと意地悪しちゃった」
「え?」


気付いてくれないって何を…まさかクリームのこと?
恥ずかしいより気になる気持ちが勝ってそろりと視線をやれば、向こうが先に口を開くのがわかったので続く言葉を待った。

すると、なぜか挑戦的な笑みを浮かべて、私のお皿からマシュマロをひとつ摘まむ。


「シンを推してくれるなら教えてあげる」


マシュマロにキスを落とす彼に、また顔があげられなくなった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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