雷門は再びザナークドメインとサッカーバトルを行うこととなった。
「沖田総司とサッカーバトルとはな…」
神童が渋い顔で呟く。
以前の対戦と異なるのは、この時代の人間である沖田総司がザナークドメインに参加していることだ。
彼にはザナークが助力していることもあり、その能力は未知数。今後の私達の目的の為にも注意を払うべき対象だ。
フィールドには剣城、天馬、錦、信助、そして坂本龍馬が立つことに決まった。
話によると、先に坂本龍馬と接触した天馬たちは彼の申し出によりサッカーを教えていたらしい。筋が良いと彼らは言う。実際いかほどのものであるかは目視してみない限りには測れないが、雷門の面々にそう言わしめるなら戦力としてマイナスにはならないだろう。
ズキリ、と不意に足首に痛みか走る。
ろくに体を動かせてもいないというのに、首の後ろに汗が滲んでいるような気がした。
確かめようと手を伸ばしかけて、それを止める。理由は不明。ただ心臓の音が自己分析をも妨げた。
今は白竜の背から降り、私も雷門のメンバーと共にフィールドの側に腰を下ろしている。
白竜は私の隣に居るものの、座ろうとはしなかった。彼が気を張っているのが纏う空気から伝わってくる。
彼がそこまで張り詰めているのはどうしてだろうか。
私には理解が出来なかった。
きっと今の私では、景品にも満たないというのに。


ザナークドメインの先行で、ゲームは開始された。
彼らのボールは早々に沖田総司に回される。
「行かせない!」
天馬が素早く沖田の前に走り込んだ。
だがしかし。
「っ速い……!?」
沖田はいとも容易く、天馬の脇を走り去った。その身のこなしは軽やかで、まるで一陣の風が吹き抜けていくようだ。
沖田を注視すれば、彼も目を見開いて口を数ミリ開いている。己の体のコントロール、その自由に驚いているように見える。
「うおおお!」
と、その一瞬の間を突いて、坂本龍馬がスライディングで滑り込んできた。
沖田のボールはカットされ、ラインの外へ出る。
今の間を感覚のみで見抜いたならば、やはり歴史に名を残す偉人は侮れないということだろうか。
彼にサッカーのセンスがあるという話にも頷ける。
「そう簡単にやらせやしねぇよ」
「くっ……」
坂本と相対する沖田が歯噛みする。
そこから雷門とザナークドメイン、どちらも退けをとらない攻防が続いた。
坂本龍馬が持っていたボールを沖田総司がカットする。
坂本は眉の一端を持ち上げた。
「おめぇ、なかなかやるなぁ」
沖田が眉根を寄せて、坂本と視線を交える。

「貴様に負けるわけにはいかないんだ……!」

不意に、ぶわりと肌が栗毛立った。
一瞬だけ呼吸を詰める。
それは坂本龍馬を睨み付けた沖田の眼光が、あまりにも深く、鋭かったからだ。
これは、こんな感覚は初めてだ。
きっとこれは、龍玄徳のものとはまた別の『意思の力』に違いない。

刃の切っ先のように鋭利で鮮烈、しかしまるで煮溶かした鉛のように重く息苦しい。

彼の瞳には、喉に刀を突き付けられるような、そして溶かした鉛を流し込まれるような恐ろしさがある。
沖田が続くゲームで執拗に、徹底的に坂本龍馬を狙う姿にもその認識が裏付けられていった。
劉備のものとは違う。
彼のものが揺るぎない決意なのであれば、沖田のものは果てのない執念と言った方が良い。

そう、寒気がするほどの執念だ。

フィールドに立つ天馬たちも、見守る神童たちも
、雷門の面々は彼の気迫に圧倒されていた。
ただ不思議なのは、末恐ろしさを感じても、それが悪いものではないように感じることだ。
私の足が万全であったなら。
己の足首を指先で撫ぜる。
『複製』が可能であったなら、彼の心理状態がより詳しく推測が出来た筈だ。


と、試合を見ていたフェイがおもむろに立ち上がり、フィールドの方へ歩み寄った。
「みんな、ちょっといい?」
呼び寄せられた天馬たちがフェイの周りに円を作る。
「こんな作戦はどうかな?」
「作戦?」
耳をそばだてるとそんな会話が聞こえてきた。
作戦。フェイは今の状況を打開する策を練っていたらしい。
ふと自分から対策を練るという思考が抜け落ちていたことに気が付く。
途端に、胸の奥を鈍器で打たれるようだった。
今の私には推測さえ出来ないとそう状況を処理して、それ以外のことへまるで思考を割かなかった。
ただ試合を見ていただけ。
その事実に四肢が、頭が、重くなる。
これではいよいよ何の為に居るのか解らない。
重い胸の奥をじりじりと火で炙られる心地がする。
「というアイデアでどう?」
「なるほど」
「いけるぜ、そいつは!」
「ああ」
「よし、やろう!」
俯きぼやけた視界の中にそんな会話が聞こえてきた。
フェイたちの間で話はまとまったようだ。作戦は実行に移されるらしい。
……彼らの行動を記録しなくては。
ひどく重い頭を無理矢理に持ち上げた。


天馬からパスを受けた坂本龍馬の前に当然の如く沖田総司は立ちはだかった。
しかし、どういうつもりか坂本は沖田の方へボールを転がす。
「そんなに欲しけりゃやるよ」
「何……?」
沖田が目を見張った。坂本は挑発するように彼へ言う。
「見せて貰おうじゃねえか。新撰組一番隊隊長のお手並み、いや、足並みか?」
「……後悔するぞ」
ボールを持って走り出した沖田に、今度は坂本が執拗にカットに入る。
攻防はいつしか彼らの間のみで行われていた。沖田と坂本の間で視線が激しくぶつかり合っている。
業を煮やしたザナークドメインのメンバーがついに沖田に声を荒げた。
「ボールを寄越せ!」
「これは俺と坂本龍馬の勝負だ!」
「何っ……!?」
沖田がその声を一蹴する。
彼の視界には今や完全に坂本龍馬ただ一人しか映っていない。
……成る程。そういう事ならば頃合いだろう。

「良い気合いだぜ! だがなぁ!」
予測通り、雷門は動き出した。
沖田の前に立ち塞がる坂本龍馬、しかしその巨体の影からもう一人が現れる。
「龍馬はもう一人居るぜよ!」
それを合図に坂本が跳躍する。その間を、錦が勢い良くスライディングで滑り込んだ。
「何っ……!?」
「坂本龍馬を意識しすぎぜよ!」
坂本と錦の見事な連携に沖田は意表を突かれボールを奪われる。
沖田はチーム戦であるサッカーに慣れていない上に、坂本龍馬を意識しすぎている。敵はおろか味方でさえ、他のメンバーのことが眼中になかった。
彼らはそこに坂本龍馬本人をけしかけていくことで、更にそれを助長させたのだ。
それにより沖田の隙がより浮き彫りになった、そこを狙う。
フェイが考案したのはこういった沖田の執着を逆手に取った作戦だろう。

「決めろ! 剣城!」
天馬からのパスが剣城に渡る。
化身アームドで化身の力が乗せた剣城のシュートは容易く敵のゴールを割った。


(19.2.2)


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