「しっかし新撰組の屯所、どこにあるんだ?」
周囲を見渡しながら水鳥がぼやく。
新撰組についての聞き込みを終えてからは、町の散策を行っていた。未だ新撰組の屯所らしき建物は見つかっていない。
「分からなければ、もう一回聞けばいいやんね」
黄名子が一人、輪から抜け出て走り去っていく。再び聞き込みに行ったようだ。
「でも、こんなに新撰組のこと調べてて危なくないですか?」
「確かに迂闊には動けないな」
狩屋の言葉に霧野が顎に手を当てて返答する。
町人の話を聞く限り、新撰組に怪しまれては事を進めるのが困難となるだろう。
「すみませーん」
と、その矢先、黄名子の弾んだ声が聞こえてくる。誰かを呼び止めたらしい彼女の方へ、私も含めた皆が視線をやる。しかし、次の瞬間にはその場の空気が一瞬で凍り付いた。
無理もないことだった。黄名子が声を掛けたのは、ダンダラ模様の羽織を着た2人連れ。
新撰組隊士そのものだったのだ。
「どうした娘」
「新撰組の屯所はどこ」
「わ、わあああ!!」
誰よりも早く危険を察知した水鳥が、黄名子の口を塞ぐ。
当の黄名子はぱちくりと目を瞬かせて、状況をよく分かっていないようだった。
フェイたちと共に急いで彼女たちの側に駆け寄る。
「新撰組に何の用だ」
「な、何でもないです」
隊士たちに伝わってしまった黄名子の言葉を誤魔化そうと、水鳥はぎこちない笑顔を浮かべている。
しかし必死であろう彼女の内情も露知らず。黄名子は水鳥の腕を振り払ってしまった。
「あっ!」
「沖田総司に会いたいやんね!」
「沖田だと?」
その名が出て、ついに隊士たちは眉間に皺を寄せた。平静であった彼らの空気が変わる。
私は静かに体勢を整えた。
警戒、敵意、そして最早その身に染み付いているのであろう、微かな殺気。
その仄かな匂いであれ、私の神経は油断を許そうとしない。
「お前たち、薩摩や長州の回し者じゃあるまいな」
「怪しい奴らだ。取り調べさせて貰う!」
「えっ!?」
私達の間に確かな緊張が走った。
一人が刀に手を掛け、もう一人の隊士が水鳥の腕を掴む。咄嗟に水鳥は振り払おうとしたが、その指は彼女の細い腕に食い込んでいた。
「っ痛、離し……」
「水鳥さん!」
フェイが焦りをあらわに叫んだ。
思考が走る。
私達のうち誰か一人でも捕縛されれば沖田総司の捜索、それどころかミキシマックスという本来の目的さえ達成が困難になる。歴史への影響も出かねないとなると、これは緊急事態と判じて良いだろう。
すっと腹の内が冷える。
数は二人。共に男性。援軍の可能性有り。武器は日本刀。交戦は不利。第一目標、雷門を離脱させる事と設定。己の安否は第二とする。

冴える刃を手にするような鋭い感覚。
幾度となく繰り返した感覚。
ただ今までと違うのは、頭だけが燃えるように煮えたぎっていること。

ーー行動開始。


地を蹴った瞬間に、足首に鈍痛が走った。しかし構っている場合ではない。
皆の輪から飛び出し、水鳥を捕まえている隊士の前に躍り出る。
彼女の手首を掴んでいるその腕を逆に掴み取った。相手の腕のひじから指幅3本下、手三里(てさんり)のつぼを狙って思いきり親指を食い込ませる。
「ぎゃあ!」
隊士の手が緩んだその瞬間に、彼女の手首から引き剥がした。
水鳥を背後へと押し退け、隊士の正面へと割り込む。素早く相手の顎に掌を当て、思いきり体重をかける。隊士の体は大きく私達から突き放された。
「水鳥、今のうちに皆と逃走を」
「リファっ……!?」
後方を軽く振り返って伝達する。水鳥は混乱している様子だった。
「貴様!」
金属の擦れる音が聞こえた。抜刀したもう一人の隊士がこちらに斬りかかってくる。
想定通り。水鳥の体も蘭丸たちの方へ突き放し、次いで体勢を立て直した。
目を凝らす。視神経の全てを稼働させる。
相手の手元に視線を集中させて、動きを読む。
私にとって剣を避けることはさほど難しいことではない。
相手の動きに合わせて体を右へ反らし、次は左へひねる。
鈍色の刃が残像となるその一瞬を縫って。視認して。
あとは隙を見せたところで懐に入り、刀を抑えて確保ーーだが、その時。

強く、私の体は後方へ引き寄せられた。
柔らかな衝撃と背中に感じる体温。何者かに抱き止められたのだと知る。
「走れ!」
剣城京介の声。それを合図に雷門イレブン達は走り出した。
「行くぞ!」
間近に聞こえたのは白竜の声だった。手を強く握られる。薄水色の髪の尾が目の前で揺れる。
手に伝導する熱が、私の手にもじんわりと温もりを宿した。それはまるで彼のエネルギーが直接流れ込んでくるようで。
彼に手を引かれるまま私も駆け出した。


(19.1.10)


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