「ッぁ」
着地と同時に、右足首にぐにゃりと嫌な感触があった。足に力が入らず、体重が支えられない。受け身を取ることもままならず、落下の衝撃のままにフィールドを転がった。
「リファ!」
薄目を開けてゴールを確認する。ボールは紛れもなく私のゴールに収まっていた。
「……勝敗、確認……私の……敗北。白竜、貴方の勝利だ」
「ああ……だが、それよりお前、怪我をしただろう」
痛みに足首を押さえる。本能的直感が、これは重傷に近いと訴えかけている。
「っ、報告する。右足首、負傷。カウンターシュートの際の衝撃に加え、着地の際に捻った模様……」
白竜に介助されながら、上半身を起こす。重い捻挫に打撲が重なったようなものだろうかと、自身の足を観察をした。じりじりと焼けるような表面の痛みと、内部からのずきずきとした痛みが身に刺さる。
「……何故跳んだ」
微かに唇を動かした白竜は、呟くように私に問いかけた。
顔を上げれば、白竜が真剣な眼差しで私の目を見ている。思わず声が溢れそうになったが、その眼差しに言葉を失った。彼の意思が、真っ直ぐこちらに向けられている。
「素でカウンターシュートをしようとした時点でかなり右足にダメージを負ったはずだ。もしかして、その時には既に足を痛めていたんじゃないか?」
「それは……」
記憶を思い起こし、言葉に詰まる。白竜の問いかけには、確かにそうだと言える。
私はカウンターシュートの時点で、足に痛みを覚えていた。
「だがお前はボールを追いかけた……それは、何故だ? お前は何故跳んだ?」
私が辿り着いたものと、同じ疑問が白竜の口から発せられた。
広いピッチには私達の話し声以外に、何も物音がしない。やがて、私達の間にも沈黙が降りる。
ただ、その間にも私の思考回路は目まぐるしく働いていた。
何故私は負傷しているにも関わらず、ボールを追いかけたのか。
あの時、私は何を思ったのか。
いや、それよりも、そもそも何故。
何故、私はあの圧倒的な力の前になお立ち向かおうとしたのか。

「分から、ない……」
口から溢れ出た言葉は、あまりにも無力な響きをしていた。
「ただ……貴方より、高く跳ばなくてはならないと思った……」
勝つことを目的には設定した。
それは勝負という形式での対戦だったから。
けれど、勿論私は誰にも勝てなどと命令されてはいない。また私は『ただ行動した』。行動の動機は命令でも許しでもなくその外側にあった。
ぞくりと鳥肌が立つような衝撃が内に走る。
今、思考回路のどこともつかない場所から、言葉が紡がれている感覚がある。
発声にまるで思考がついていかない。
しかし気付けば私は答えていた。

「……私は、貴方を、越えたかった」

それは、初めて言葉を覚えた幼児のように辿々しく。
自分から出た言葉に、私自身混乱していた。足の痛みもその間は忘れていた程。
たくさんの疑問符が内心を駆け回る。
何か、もっと論理的な、明確な答えを出さなければ。そうでなくては、回答したとは言えない。
しかし処理しようにも全てがエラーを起こして、唾を飲み込むことさえままならない。
ただ視線を落として黙りこむ。

「……そうか」
しばらく黙っていた白竜は、静かにそう言った。
不意に、彼の顔を見ることに恐怖を感じた。
顔を上げることが出来ない。
思考に圧迫されているの頭の隅で、心拍数が上昇するのを感じていた。
「ともかく、治療が必要だ。掴まれ」
白竜に肩を貸される。
きっと彼にとって思わしい結果にはならなかった。結果として、私は自身の性能で白竜を上回ることが出来なかったのだから。
ただこうして肩を貸すのは、私が使い物にならななくなるのを避けたいのだろう。
ひりひりとした痛みは今は足ではなく、重く胸から感じていた。


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