隠し通路を抜けると、そこは孔明要塞の入り口だった。振り返り要塞の頂上を見上げたが、もうザナークの放つエネルギーの柱は見えない。
「ザナークが放っていた禍々しい気が晴れました。どうやらもう危険はないようですね」
孔明も頂上を確認して言う。
しかし逃げる最中には、耳をつんざくような爆破音が聞こえた。その音の発生源はザナークに違いないだろう。
依然として私の動悸は激しかった。汗が吹き出して、止まらなかった。
確かに先程のザナークは近付くだけでも危険な状態だった。だというのに、どうにも、ひどく落ち着かない。
神童がこちらに気付いて声を掛けてきた。
「……リファ? 大丈夫か?」
「……脈拍と発汗量に異常、原因……不明」
「リファ怖かったやんね? もう大丈夫よ」
「リファちゃん、お水飲む?」
黄名子に背中をさすられ、葵からドリンクボトルを差し出される。何故か否定の言葉が喉から出かかったが、彼女たちの言動に従うと異常は少し緩和したので何も発言はしなかった。
私が彼の事を考えても、どうしようもないのだ。それにその必要性があるのかと問われれば否だろう。私はぐっと唾を飲み込んだ。
「やっとお前と話し合うことが出来るな。」
孔明へと向き直った劉備の言葉でようやく視線を戻す。
ザナークの来襲で出来なかった話を劉備は始めた。民の平和のためには孔明の力が必要だと、自分と共に闘ってくれと。
それに対して孔明はついに是と返した。ただし、彼女は一つの条件を彼に提示した。
「ワタクシを……部下ではなく、パートナーとすること。同じ目的のために思ったことを言い合える……対等であり、無くてはならない存在……そうです。水と魚の様な」
張飛たちがこれに対し異を唱えたが、劉備は快くこれを良しとした。しかし頭を掻いて、彼は尋ねる。
「だが孔明、何故考えを変えた?」
「見てみたくなりました。あなたのような人が国を治めたらどうなるのかを。」
そして、自分がいなければ劉備は戦には勝てないだろうと孔明は言った。劉備の長所と短所は全く同じ、こうと決めたら曲げない強い意思と実行力であると彼女は指摘する。
「しかし、その強すぎる意思によって痛い目に遭うことも多いでしょう。戦いではそれが致命的敗因となり得る」
「た、確かに……」
「それでも、あなたは人を惹き付ける。皆、あなたの元に集まる。それは何者にも代えることの出来ないあなたの力。そして才能。ワタクシはそれにかけてみたくなりました。」
「わしにかけるか」
確かに、戦では戦況に応じて考えを変えることが必要だ。その考えの変え所を孔明が指針となって劉備に伝えるという。そうすればもう劉備が負けることはないと孔明は断言した。
「相変わらず生意気な奴だ! ……だが、よかろう!! わしと来い、諸葛孔明! お前はこれからわしのぱぁ……ぱぁと?」
「パートナー、です」
「そう、それだ! ガッハッハ!」
交渉は成立、話は丸く纏まったようだ。
信助が目を輝かせながら「パートナーかぁ」と呟く。
「いいね、孔明さんと劉備さん。会ったばかりなのにずっと昔からの友達みたい」
「俺たちだってそうじゃないか。みんなサッカーで繋がった仲間だからね」
信助に天馬が身を屈めてそう言う。
仲間。
何か、特別な響きを持って胸の中にその言葉が落ちてくる。私が知る構成員の一員という意味でのもの、それだけではないような気がする。『仲間』の一人に私も数えられていることが、どうしてこんなにも強く心に響いてくるのだろう。
「パートナーと言えば! 白竜とリファも息ぴったりだったやんね!」
「そうそう! あのゴール、すごかったよ!」
黄名子と天馬から不意に名前が挙がり、瞬きすると視界の端で白竜と目が合った。しばらくそのままで居たが、彼は何も言わずに顔を逸らした。
次は信助に呼び掛けられ、視線を下へと落とす。
「ありがとう、リファちゃん! あの時ゴールを守ってくれて!」
「あの状況に最適な行動と判断して実行したまで。問題ない」
信助から手を差し出される。ただ今度は拳ではなく、手は開かれていた。軽く拳を作ると、信助は笑ってそれを正した。
「違う違う! 握手だよ。手を握って」
「……次は、握る……」
指示に則って小さな手を握る。すると強く握り返された。『握手』、この行為の意味をやはり私は知らなかったが、ただ信助の手は暖かかった。
天馬に肩を軽く叩かれる。
「今日の試合で負けなかったのは、信助、白竜、リファ。3人のおかげだ。これからも一緒に頑張っていこう!」
「よろしくね! 白竜、リファ!」
「……ああ」
「……了解した」
信助の言葉への答えが白竜と重なった。
ふと視線をやったがもう一度顔を逸らされる。周りにいた雷門の面々は笑顔を浮かべていたが、笑うようなことがあっただろうか。やはり、不思議な人々だ。

かくして、私達は現代に戻ることになった。
互いに礼を言い合い、劉備は私達を激励した。
「白竜さん、皆さん。あのザナークという男は恐ろしい力を持っています。恐らく本人も気付いていない力を。ですが、ワタクシが力を貸したあなた方なら乗り越えられることでしょう。ご武運を」
「はい。孔明さんの力、俺にどこまで使いこなせるかわかりませんが……」
白竜は孔明と、他の面々もそれぞれ劉備たちとの別れの言葉を交わしていた。黙って劉備を見つめていると、彼と目が合った。
「お前さんはー……リファ、だったか。お前さんもこれからの旅、頑張れよ! なぁに、お前さん達なら何でも出来る!」
「……龍玄徳……さん」
何か、私も彼等のように話すべきだろうか。しかし、劉備へ伝達すべき情報は特にない。あるとするならば、それは。
「私は、貴方から意思の力、そしてその熱を知った。感謝、しています」
「ん? なんだ、よく分からんが……そいつはよかった!」
よもや、自分の口からそんな言葉が出るとは思いもよらず、呆然としていると頭に軽い衝撃があった。髪を掻き回される感覚、頭に大きな手を押し付けられている。目を白黒させて顔をあげると、劉備は豪快に笑った。
「しかし、お前さんには笑顔が足りんな! もっと笑え! その方がずっと良い!」
「……了解、しました」
笑え、とはどういう意図の発言なのだろう。確かに雷門の皆はよく笑い、また劉備もよく笑う人物だった。私もそれに倣った方がよいということだろうか。しかし、笑うとは、どのようにすれば良いのだろうか。
横から速水が劉備にサインを求めに来た。サインの意味が分からない劉備に孔明が呆れ顔で説明をする。そんなやりとりに、速水たちはまた笑う。

そうして三国志のタイムジャンプは終了した。



竹藪の中で、男は自分の手のひらを見つめ自問していた。
「どうなっているんだ、俺の力は……自分でもコントロール出来ないほどに大きいというのか……面白い」
「君は目覚め始めているのだ。セカンドステージ・チルドレンの力に……」
あるはずのない第三者の声にザナークは振り返る。先程まで誰も居なかったそこに、ローブを纏った髭の老人と思われる人物が立っていた。フードを深く被ったその人物は顔が見えない。
「お前は……誰だ?」
「君を導く者だ」
「俺を導く……? 俺をどう導く」
「今に分かる。今はこのままやつらを追い詰めることだ。そして、自分の力を高めること」
そして謎の人物は消えた。テレポーテーションしたようだった。ザナークは消えた人物がいたそこを睨み続ける。
リファの知らざるところでまた、彼の物語も歩み始めようとしていた。


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