ザナークドメインのスローイングから試合が再開した。すぐさまにボールはザナークへ渡り、彼は雷門ゴールへと走り込んでくる。
「劉備とのミキシマックス、どれ程のものか見せて貰うぜ!」
紫のもやの中から再び魔界王ゾディアクが姿を現した。くる、化身シュートだ。
「吹き飛ぶが良い!」
吹き荒れる恐怖、レッドプリズンがゴールへと迫る。だが今回は先程とは違った。信助はザナークのシュートにも臆することなく、真正面からそれに立ちはだかっている。
「絶対、止めるんだ!」
叫んだ信助が右腕を大きく振り払うと、墨で描かれた世界が現れた。
それが幻覚なのか、現実のものなのか、私には咄嗟に判別がつかない。だが周囲の景色が丸ごと水墨画になったようだった。
そびえ立つ石柱の群れの中に入っていったボールはやがて巨大な岩山へと上って行き、その頂上から片手を振り上げた信助が飛び込んでくる。その背後には石で出来た大きな掌が見えた。
大きな平手はボールを握り込んだ。
衝撃での突風に目を細める。
だが視線の向こう、ゴール前にはボールを地面に叩き伏せるようにして止めた信助の姿があった。
「止めた……!」
雷門の面々は歓声をあげて信助の名を呼んだ。信助は新たに得たミキシマックスの力で、己の役目を果たして見せたのだ。
「反撃だ!」
信助のスローイングがディフェンダーへと繋がってゆく。
「リファ!」
神童から出されたパスを受け取り、彼の動きを『複製』してボールを上げていく。敵のマークの間を縫って、白竜が絶妙な位置取りに飛び出してきた。そこへ目掛けて、素早くパスを出す。
狂いのないトラップ。ボールは白竜へと繋がり、ゴール前へと彼は走り込んだ。
「西園が止めて、皆が繋いだこのボール……必ず決めて見せる! はああぁっ、天地雷鳴!」
雷光を纏ったボールは、彼の放った天地雷鳴は、再びゴールへと突き刺さった。
雷門が歓喜に沸き立つ。これでゲームは3対3となった。残り時間も考えれば、十分に逆転は可能になったと言える。

「ククク……俺をここまで楽しませてくれるとは。面白い! 面白いぞ雷門! 本気で叩き潰してやるぜ!」
ザナークが吠え立てた。彼は雷門の追い上げに焦るどころか、闘争心を更に燃やしたようだ。
そんな彼を見ていると、何故かまるで居ても立ってもいられないような衝動に掻き立てられる。
「そんな! まだ本気を出していなかったというのか!」
神童は汗を浮かべている。身構える雷門一同を前にして、啖呵を切ったザナークが不意に体を屈めた。
その時、心臓が大きな音を立てて脈動した。肌に感じるエネルギーの乱れ。鳥肌が立つような衝動。思わず胸を押さえて、呼吸を意識する。
この衝撃の発生源は、ザナークだ。
「ぐっ! さっきからなんだこの感覚は! 俺の体はどうなっている!」
これは、何か、どうなっているのか。
自身もそうだが、それよりもザナークの様子がおかしい。
彼は何かを堪えているようだった。
しかしその瞬間はぷつりと糸が切れたように。
「ふぐぁぁうあああああああああーー!!!」
ザナークが天へと咆哮した。すると同時に紫色の莫大なエネルギーが彼を包み暴風を起こした。闇の中でザナークは叫び続ける。
「俺は……なんなんだぁぁあああーーー!!!」
呼吸が出来ない。これは、一体、何が、どうなって。
「何が起こってるんだ!?」
天馬、それに雷門の全員も状況を把握できていないようだ。
ついに光は柱となり、そのエネルギー量に耐えきれず地面に亀裂が走った。孔明の園を包み込むほどの強大な力が、逃げ場を探して天へと伸びる太い光の柱になる。それはもはや爆発に近い。
ザナークのエネルギーの暴発を孔明が扇で打ち払った。
「あの者の力が暴走しているのです! ここにいては危険です。皆さん、こちらから逃げましょう!」
「でも、試合はまだ……」
「あれはただの暴走した破壊するだけの力。最早これは試合ですらありません。それでもまだ、戦い続けると言うのですか」
劉備と孔明が皆を誘導する声が聞こえる。それに従うべきだというのに、私はその場から動けないでいた。口を開こうとしたその時、不意に腕を引かれた。振り返れば天馬が私の手首を掴んでいる。
「リファ! 早く逃げよう!」
即座に返答をすることが出来なかった。
一瞬だけ、光の最中へ視線を投げる。
「……了解、した」
背後からは絶えずザナークの絶叫が聞こえる。隠し通路に駆け込む天馬の背から視線を外し、もう一度光の中にザナークの姿を探す。
天馬に手を引かれたあの時、私はザナークの名前を呼ぼうとしたのだと、気付いたのは後になってからだった。


[ 20/53 ]



 
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -