サイドに長く垂れそして広がる薄い半色(はしたいろ)と、風に揺れる葡萄染(えびぞめ)の後ろ髪。形は少年のそれだというのに、指先はどこか優美さを感じさせる。精悍な鼻梁に薄く色づいた花の香り。気付けば、白竜の佇む姿に目を奪われていた。
彼の身に纏う力は先程とは歴然、だが変わらない鳶色の瞳に、その色に射抜かれる。
思わず息を飲んでいた。不思議と鼓動が早くなる。
「まさか強制ミキシマックスか!? 信じられん…
…本当に出来るヤツがいるなんて!」
ミキシマックスーー白竜は孔明とミキシマックスした。ワンダバが言うには、孔明が強制的に行ったらしい。
「孔明、力を貸してくれたのだな。礼を言うぞ」
「別に貴方の為ではありません。自分にかかる火の粉を振り払うために彼を利用したまで。このワタクシの力を最も効率的に使えるようだったので」
「まぁ例えそうだったとしてもこっちは結果的に助かったんだ」
もちろん劉備の言う通り、彼女の行動理由がなんであれ雷門側としては力を得れたことは大きい。孔明のオーラを手に入れるという当初の目的もこれで果たせたのだ。
だが彼女は本当に、自分の為に今動いているのだろうか。一瞬、彼女と視線が交ざる。こちらを見て何か思惑ありげに微笑んだ彼女の思考はやはり読めない。
「よーし! このまま勢いに乗って、勝利をつかむぞ!」
「はい!劉備監督!」
ともかく、雷門には流れが戻ってきた。メンバーの士気も向上している今、畳み掛ける他にはないだろう。
「孔明とミキシマックスだと? 面白い! ククク、さぁ見せてみろ! 孔明の力を!」
ドメインのボールで試合は再開した。ザナークが強引なドリブルで雷門に突撃してくる。
「みんな! 俺の指示に従って動いてくれないか?」
ブロックに入ろうとした雷門の面々に白竜が声を張り上げた。
「白竜、何か策があるのか?」
「何!? どういうつもりだ?」
「信じてくれ! きっとチームを勝利に導いて見せる!」
剣城と神童に彼はそう断言した。彼の瞳に澱みは消え失せ、滾る光が戻っている。
フィールドには再び風が吹いている。
「白竜……わかった」
「お前の指示に従おう。頼んだぞ白竜!」
「ああ! 孔明さん……この力……サッカーのために、勝利のために…… 使わせてもらいます!」
二人の了承と共に、雷門は白竜の策に乗ることを決定した。深く頷いた白竜は走り出し、呟く。
「この俺もかつてチームを率いて究極を目指した。今なら分かる……チームを生かすことが自らを生かすことになる……」
『チームを生かす』、独りよがりのプレーで空回りしていた先程の白竜とはもはや別人だということは明白だった。彼は目を覚ました。
そして彼にも今、フィールドの全てが視えている。
白竜を『複製』した私がそうだったように。
本来の彼が、そうであるように。
「自らの力を!」

ザナークへ向かい、白竜が走り込む。
「ククク! 無駄だ! 俺は止められないぜ!」
「今だ! みんな! 剣城、天馬、リファ、ボールを囲むように右回転!錦さんと神童さん、フェイはその周りを左回転! 残りの全員で一番外側を右回転!」
白竜の的確な指示で、三つの円がザナークを取り囲んだ。
「馬鹿が! ガラ空きだ!」
ザナークは3つの重なりあった円に出来た隙間を見抜きボールを蹴り込んだ。しかし綺麗に外へと通じるコースのその先には白竜が待ち構えていた。
「何っ……!?」
ザナークが声を上げる。彼の意思とは裏腹に見事、ボールは白竜の元へと渡ったのだ。
「あれは……『奇門遁甲の陣』か!」
「さすが関羽さん。ご存じでしたか」
関羽に孔明が言う。聞きなれない陣形であったが、孔明の持つ戦法のひとつであるようだ。彼女とミキシマックスした白竜が使えたことにも辻褄が合う。
「完全に包囲された敵は全力を持って襲いかかってきます……ですが、一ヶ所にだけ穴を作っておくとそこに力を逃がすことが出来るのです」
「まさか……ザナークを誘導してこちらが狙った場所にパスを出させたのか!」
ワンダバが言う通り、白竜は三つの円を使い、わざと狙った場所にパスを出させるコースを作ったということだ。
「やっぱりすごいや、白竜……僕も早く劉備さんとミキシマックスできるようにならないと!」
信助の感嘆が聞こえる。 
そう、これが孔明とミキシマックスした彼の力。新たに得た彼の力なのだ。

「リファ、俺と並べ!」
名を呼ばれ、不意に気が沸き立つような感覚を覚えた。
直ぐ様になびく葡萄染の髪を追う。
だが速い。彼は、今このピッチに立っている誰よりも速かった。不調の時とは見違えるような動きだ。
じっと目を凝らす。
並走でのワンツーパスからシュートへ繋げるのが狙いなのだろう。それも速攻でだ。
ミキシマックスした白竜の今の出せるトップスピードを殺さずにとなると、それについて来れるだけの速さ、もとい自分と同じスピードを出せる相手が必要だ。
自分がやるべきことは瞬時に理解した。
歩幅、速さ、腕の振り抜く角度、筋肉の流れ、関節の動き。視覚全ての情報が私を動かす。
網膜から体へ流れるもの、電流よりも確かなこれは、生まれたその瞬間から持っていた本能的感覚。
私は、白竜の動きを完璧に複製した。

白竜の走りでついに彼とほとんど並んだ。
弾丸のようなパスをワンタッチで跳ね返す。
敵を抜くのにかける所要時間を計算にいれずとも動きが合う。
ザナークドメインには白竜は止められない。
彼がシュートの体勢を見せる距離も体が覚えている。見計らい強くボールを蹴り出した。
高く、高く、それは彼の頭上へ。
見上げるほどの彼方まで。

「うおおおっ!!」

片手を突き出した白竜はせり上がる岩石の上に居た。空には黒雲渦巻く嵐、その中へ私の蹴ったボールがさながら突風の如く吸い込まれて行く。そして、白竜自身もその嵐の目の中へと飛び込んで行った。
やがて、白竜が渦巻く雷雲引き連れて天から降ってくる。ボールには雷の力が帯び、激しい稲妻が周囲に迸っている。彼は回転した勢いのまま、回し蹴りでシュートを放った。
「天地雷鳴!!」
白竜が蹴り込んだ瞬間、白光のエネルギーが注入されボールは雷の塊と化した。
激しい暴風に煽られるも、必死に足に力を込める。そして何よりも瞬きも失(な)くして、網膜にそのシュートを焼き付ける。白竜の力の全てを、彼のシュートの光を。
岩壁を砕き、その破片までをも巻き込んで。雷雲はボールと共にゴールへと突き進む。強大な嵐が雷鳴を轟かせる。
フィールドに嵐を降ろしたそのシュートは、敵の必殺技を容易く打ち破りゴールへ食らい付いた。

得点だ。
白竜がついに得点したのだ。
「やった! 白竜が決めたぞ!」
「見違えるような動きだ。あれが白竜のミキシマックスか!」
天馬と神童、そして雷門の面々が各々に歓喜の声を上げる。駆け寄った皆が白竜の背に腕を回したり、手を合わせたりと、慌ただしくその喜びを体で表現する。
彼らに囲まれていた白竜と視線が合った。
彼は口の端を吊り上げて、目尻を数ミリ下げて見せた。それはこちらに微笑んだと、そう認識出来るものだ。
目元を歪ませ鼻で笑った以前の表情よりも見ていて体が疼くような感覚がする。先程の彼の電流が私の体にも流れたのだろうか。どこか痺れるような、けれどそれも嫌悪感は感じない不思議な感覚が胸に残った。


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