「ミキシトランス! 曹操!」
試合が再開するなり、ザナークは仕掛けてきた。彼は劉備と敵対する曹操の軍に潜り込み、そのオーラを奪ってきたらしい。曹操とミキシマックスした彼は更にこちらへ吠える。
「これだけじゃあないぜ。来い! 剛力の玄武!」
彼は曹操の化身を呼び出したのだ。その力は絶大なもので、雷門を瞬く間に蹴散らした。
「止めるっ!」
ゴール前まで下がってきていた白竜がザナークの前に走り込む。だがザナークは凶悪な笑みを浮かべて彼を一蹴した。
「邪魔だァ!」
「ぐわあぁっ!」
自身の足に余分な力が籠ったのを感じた。だが隙を与えずに私はザナークの前に飛び出す。
「ハンターズ……ッぁ」
狩屋の技を複製しブロックを試みたがそれも通用はしなかった。ザナークに吹き飛ばされて受け身を取りつつもフィールドを転がる。
「ゴォォール! ザナーク、追加点だーッ!」
実況が鼓膜に響く。顔を上げれば、雷門のゴールは煙を纏いボールはその中にあった。
しばし呆然とその光景を見つめる。2対0、点差が開いてしまった。このままでは敗北してしまう可能性がある。
「リファちゃん、大丈夫?」
「……問題ない」
声を掛けてきた狩屋に答える。彼はこちらに手を差し出していたが、何の意味があるのか分からずそのまま立ち上がる。
「……さっきの技さぁ、俺の?」
少しの間を置いて、やや怪訝な顔をしていた狩屋はこちらへ尋ねてきた。
彼の吊り上がった目が私の瞳を見つめている。底に何か真意を秘めている、その様に見えたが、私にはそれを読み取ることが出来なかった。
「先の『複製』のことならば、貴方の『ハンターズネット』で間違いない」
「……ふーん……あっそう……」
下唇を上唇にやや重ねて、狩屋は頭の後ろに腕をやった。質疑応答にしては、さして回答に興味を示していないように見える。
「くそっ!」
不意に、聞こえてきた声に意識を奪われた。
声の方向に振り返る。そこでは白竜が引きつった表情で地面を睨んでいた。
「白竜くん、荒れてんね」
「……白竜の不調は、勝敗にも関わる。早急な原因の解明が必要」
狩屋がこちらを見ながら、一呼吸おいて呟いた。
「原因ね……」
狩屋の視線が意図的なものに見え、彼と目を合わせる。やがて彼が口にしたのは、剣城と同じ台詞だった。
「そりゃあリファちゃんが居るからじゃないの?」
「私が……何故」
ただ、思ったままに口にする。私は剣城と話した時の疑問が解消されることを望んだ。
狩屋も剣城と同じ結論を出しているということは、やはり私が白竜の不調と関わっている可能性が大きい。
「……マジかよ」
狩屋はひとつ瞬きをして呟いた。その言葉の真意が図りきれず、胸の内になにかもやがかかるような心地がする。
彼は瞼を伏せながらもこちらを見据えている。数ミリ、口の端を歪められるのを確認した。

「自分が頑張って習得した技をコピーされて活躍されたら、誰だってムカつくし焦るでしょ。特に白竜君、プライド高いあの性格だしさぁ」
まるで胸を強打されたような衝撃を錯覚する。心の臓がどくりと音を立てた。
どうしてか、不意に耳を塞ぎたくなる。
答えを望んだのは私だと言うのに、その先を聞くのを拒否したい衝動に駆られる。
しかし、狩屋はすらすらと言葉を紡ぐ。
私の望んだ答えを。

「自分が居なくてもリファちゃんが居たら同じだろ――居場所横取りしてるって思われてもさ、仕方ないんじゃないの?」

芝生を撫で付けて、風が吹き抜けていく。 
呆然と、私は彼に返す言葉を失っていた。
体に重く重力がのし掛かってくる。
私の中の深い、深いところに沈んでいたなにかが軋む。


やがて、頭の中に反響したのはホイッスルの音だった。
狩屋は周りを見渡して、再びこちらに向き直る。
「……ま、とりあえずハーフタイムだし。行こ」
「……了解、した」

そうして前半は、雷門の無得点のまま終了した。



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