任務完了のお隣いいですか? 2/2
責任



あいつの悲鳴が聞こえた。

ざわり。神経に直接爪を立てられたような体の痺れ。
(近い。)
声がした方へ広い庭を突っ切る。
もしもまたあいつに何かあれば私は――?


目に飛び込んできたのは、宙へ浮かぶあいつの姿だった。

得体の知れないポケモンが念力であいつを人間の手中へ誘導して行く。
体の自由を奪って、見知らぬ人間が強引に引き寄せる。
松葉杖が音を立てて地に転がる。

頭の奥で閃光が走った。


『貴様ら何をしている!』
両腕から出した刃で風を裂き、私はその人間の正面まで迫っていた。
自制心が働いたのは右腕を振り降ろす寸前。

――相手は人間だ。





軌道を逸らして虚空を断つはずだった刃が高く金属音を立てた。
赤い眼光とかち合う。
『……っ!?』
私と同じような形状をした腕のポケモンが目の前に立っていた。行き場を失った刃がぎりぎりと呻く。
直前で変えた太刀筋を読んで、尚且つ止めたというのか。

上空に気配を感じた。
思い切り、刃を交えたまま力任せに相手へ踏み込む。見た通り安定した型だ。
反動を利用して一気に後方に退けばそこへ兎のようなポケモンの蹴りが突き刺さった。

舌打ちが漏れる。
強者が3体。厄介だ。

何より私の刃を止めたあの男。
当たらないことが読めたならわざわざ止めなくて良いものを、「あえて」止めた。
万が一を考えたというのが真意ではあるまい。
瞳に宿っている敵意を見ればよく分かる話だ。

(牽制するか、この私を)
煮えくり返った膓へ闘心が絡み付いて、燃え上がる。尚も腕に響く震動が、胸の深くまでも揺らすようだった。

矢の如くしなやかで、強かな跳び蹴。挑発的であり冷静さを欠くことのない咄嗟の立ち回り。
恐らくはあの超術使いさえ――どれも相当の手練れと見て狂いはない。


『主!』
目を丸くしたままの人間に超術使いが駆け寄る。
『いきなり何するの!? 危ないじゃないっ』
『黙れ』
睨み返すと兎女の肩が小さく跳ねた。
『貴様らが言えたことか。こんな場所で堂々と人拐いとは下手な賊も居たものだな』
『えぇ……!? ちょっと、言ってること意味分かんない!』
『ならば問答は無用だ……そいつを離せ』
構え直すと刃を交えたポケモンが口を開いた。
『おい、落ち着いてくれ。もしかして、お前はこの娘の……』

その時、声を遮って名を呼ばれた。
気付けば片足でこちらへ飛び込んでくる阿呆が一人。


『っ!?』
そのまま私の腕にしがみついてきた。
何の躊躇いもなく、何の迷いもなく。

刃の収納が間に合って安堵したのは言うまでもない。
つい押し返しそうになったのを止めて肩を支える。
なるべく体を遠ざけて、腕は体重を乗せやすい位置まで降ろした。

『お前っそんな足で飛び込んでくる奴があるか! この……おい聞け!』
私の冷や汗など露知らず。
頬までべっとりと腕に密着させて小娘はぴーぴー喚いている。

言うには、この人達は悪人ではないと。
ただ転けかけた自分を助けようとしただけなのだと。
誤解だから止めてくれと。

ふん、知ったことか。
お前はこの連中に……


……何だと?




『おい、もう一度言ってみろ』

復唱される。
彼らは転びかけた自分を念力で浮かせて受け止めてくれようとしただけで悪党じゃない。

『……それは事実か』

小さく頷かれる。
うん、と。







『おい』
無意識に声のトーンが下がっていた。

奴等に目をやる。
華奢な緑色と兎女は明らかに毛を逆立ててこちらを見ている。対峙した緑色とそのトレーナーは何とも云えぬ温い目をしていた。


途端に疲労感が瞼にのし掛かった。それどころか全身疲労だ。
萎えた激情がくすぶって気持ちが悪い。

ああ、くそ、畜生め。
私も知らぬうちに院内生活で憔悴していたらしい。まさかこんなことで我を失うとは……
溜め息さえ重い。

薄く目を開けば、潤んだ瞳が私を映していた。
手を握る人肌は温かい。
どうしても、温かい。





何……ごめんだと?



…………。







いいや許さん。



声を落として顎先の阿呆に釘を打った。
『責任はお前が取れ、いいか』

殺生なと抗議するこいつとの口論が終わったのは相手のトレーナーが話しかけてきてやっとだった。





(何故全ての問題の原因であるお前のせいで私まで詫びねばならない。私の分までお前が詫びろ!)



end.


【うちの子がご迷惑をお掛けしてすみません、】
【なんて言っても貴方は怒るんでしょう!?】



***
衝動のままに書かせて頂いたコラボとなります。
事故でちょっと過敏になってるキリキザンとそれに出くわして迷惑こうむる任務完了夢主ちゃんご一行。
ものすごく一方的ですが私はめちゃくちゃ楽しかったです。
花影さんありがとうございましたーっ!(笑)




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