任務完了のお隣いいですか? 1/2
つまづく
*この作品は作者様宅夢長編と拙宅夢長編のコラボ作品、
かつポケモン原型が喋っています。
(そのあたりは拙宅の原型長編「お隣いいですか?」の設定です)
トレーナーキャラ×夢主さんのお子さんの表現があります。
苦手だという方は閲覧をお控え下さいませ。
お相手様、読者様、それぞれ不快な思いをされる方がないよう注意を挟ませて頂きました。
ご了承下さい。
此処のところ、あの落ち着きのない小娘が暇だ暇だと五月蝿かった。それをもっと警戒しておくべきだったのだ。
『あの……阿呆が……!』
無人の病室に立ち尽くす。
捲れ上がったままの掛け布団が私を嘲笑っているようにさえ思えた。
あいつが私を庇って大怪我を負ったあの日。
あの日から時間は過ぎてあいつの包帯は順調に外れている。骨折もしていたが、もう松葉杖をついて出歩けるようになった。
しかし、それでもあいつの体は完治していない。
(くそ、どうして目を離した。)
潔癖な白を守るこの場所では、私の体は目に痛い程よく映える。
廊下を歩むのも躊躇いはしたが、腹の底でうねる感情に堪えられなかった。
あいつが目を閉じて動かなくなった瞬間を思い出すにはまだ鮮明すぎる。
『くそっ……』
阿呆は私の方かもしれないなど笑えない。
あいつが窓の外を物欲しそうに眺めていたのを覚えていた。すれ違う人間やポケモンを意識しながら私は外へ出た。
***
穏やかな陽光がほころび、木々がさわめく。
今日も平和な午後だ。
「楽しみですね、ノボリさんとシャーラさんの赤ちゃん」
『うん! コハナもすっごく楽しみ!』
散歩日よりに乗じて出てきたコハナがルーンと並んで盛り上がっている。
その後ろで主人に呼び出されたシキは緩やかに目を細めていた。
『主、楽しそうですね』
隣のジンも口元に薄く笑みを浮かべる。
『ああ……朝からずっとだな』
最近、ルーンの上司であるノボリとその妻シャーラの間に待望の第一子が産まれたのだ。
ルーンは今日、夫妻に招かれその子の顔を見せて貰うことになった。おかげで病院へ続く庭を進む足取りは軽い。
彼女の栗色の長髪が風に吹かれて優しくなびいた。露になった頬が、淡い桃色に彩られている。
『……主は笑っているお顔が一番ですね』
柔い色に目を奪われたままシキが呟いた。
『ああ……』
暖かな風に乗って二人の間に花弁が舞う。
上の空な会話をふわりと、花の香が仄かに擽った。
『シキ兄、ジン兄、顔!』
と、いつの間にやらやってきていたコハナに視界を占領される。
『? 私達の顔がどうかしましたか?』
問えば長い睫毛が悪戯気に笑った。
『ゆるゆる!』
ぎょっとして、シキとジンが顔を見合わせる。
それを見たコハナが甘酸っぱい声を振りまいてこちらへ振り返る主の隣に帰って行った。
ルーンの顔から少し視線を外す。気まずいのはルーン相手だけではなかった。
「それにしても、ついつい約束の時間より早く着きすぎてしまいましたね……このままもう少しみんなで散歩していましょうか?」
『賛成、さんせーい! 私、もっとルーンと一緒に居たいもん』
「シキとジンはどう?」
『え、ええ……ここは人間とポケモンの総合病院ですから、この庭も広くて綺麗ですしね』
『……俺も構わない』
「よし! じゃあ決まり……」
ルーンの語尾が不自然に途切れる。
視線の先に居たのは一人の患者。
松葉杖をつく足には豪奢なギプスをはめられていた。不釣り合いを象徴するように歩みはかなり覚束ない。
懸命に歩く彼女は足下の低い段差に気付いていなかった。
無言のままシキが両手を前へ出す。指示が飛んだのはその直後だった。
「シキ! サイコキネシスで彼女の体を浮かせて!」
『はっ』
走り出した主と呼吸を重ねてその手が光を纏った。
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