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あいをてらす たいようのきもち



悪の組織には悠長に誕生日を祝う習慣がほとんど無い。生まれも育ちも関係ない世界なのだから、当然と言えば当然だろう。気にしない人がもっぱらだし、私も含め自分の生まれた日を知らない人も山ほど居る。
だから、突然投げよこされたそれには、目を丸くするしかなかった。

「ランスさま……何ですか、これ」
「あなたに差し上げます」
掌の中で仄かにきらめくそれは髪飾りだった。
深更から夜明けの空を切り取ったような、藍色のグラデーション。滲んだ温色から尾を引いて、藍に薄桃色が舞っている。光の当たり方で灰色や緑色にも見える、不思議な色彩をしていた。
「任務のついでにくすねてきたものですが、盗品でもあなたには勿体ないくらいでしょう。ありがたく思いなさい」
ランスさまはすました顔で、手をひらりと泳がせた。整った唇もいつも通りの形でしか動かない。
「や、そういうことじゃなくって、またどうして急にってことが言いたいんです」
だから私もいつも通りの調子で喋ったというのに、ランスさまは不満そうに私を睨みつける。
「どういうことですか」
「だってランスさまからいきなりこんなもの貰うなんて、私もそろそろ用済みなのかとか色々勘ぐっちゃいますよ」
「……あなたは本当に可愛くないですね。女なら素直に喜んでおきなさい」

うーん、不公平だ。

腕組をしたランスさまが私から顔を背ける。
「今日は名前が此処に来た日でしょう」
心なしか小さい声で呟くものだから、危うく聞き落とすところだった。タイミングもタイミングだったせいで、少し呆然としてしまう。
「だから……気が向いただけですよ」
ランスさまは目を閉じて、素っけなく言い捨てる。ひくついている彼の睫毛をじっと見ていると、覗いた瞳が私を見下ろしてきた。
「何ですかその目は」
「……冷酷、じゃなかったんですか?」
「五月蠅いですね、気が向いただけだと言っているでしょう!」
付き合っていられないとばかりに、細身の影が隣を横切っていく。文句言いたげな背中が可笑しくて、嬉しくて、私は笑みを堪えられなかった。

だって、気が向いただけでこれほど私に似合いの物を持って来れたなら、ランスさまはよっぽど私に熱心じゃないか。

「ランスさまー!」
ふと、誕生日を祝ってもらうのはこんな気持ちなのかなぁと考えた。こんなに幸せな気持ちになれるなら、誕生日も悪くはないイベントだ。
ただ、今後私が自分の生まれた日を知らないことを悔やむ日は来ないだろう。

「この髪飾り、ずっとずっと大事にしますからねーっ!」



たいようきもち

(振り返った彼の子供みたいにぽかんとした表情が)
(実は一番嬉しいプレゼントだった、なんてね。)






どっちみち遅刻ならいっそ潔くいこうと思います。

桜花さんお誕生日おめでとうございました!ヽ(´▽`*)ノ
初書きランスさまなので誰おまになっていないか、とてつもなく心配なんですけれど捧げさせて頂きます!
髪飾りのデザインはひっそり桜花さんをイメージしてみたり…気持ち悪くてすみません!^Д^
しかし愛は無限大です!
返品どうぞご遠慮なく!

(12.2.6)




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