3/4
『YES』はひとつ



トウヤ君に誘われて、初めて来たバトルサブウェイ。初挑戦のマルチで20連勝出来るとは思っていなくて緊張していたんだけど、7両目で私を迎えたのは


「うわあああぁぁっ!! 来たっ! 来たよノボリぃぃ!!」


という耳をつんざくような歓声だった。(多分だけど……。)
一体何事なの。


通路の向こうには、黒と白のコートを着た男の人が二人立っていた。全身から嬉々としたオーラを放っている彼らは、何故か背景に光り輝く花畑を背負っている。想像とは全然違うけれど、この人達がサブウェイマスター?
それに、何かな。私、ゴチムもびっくりするくらい彼らに凝視されてる気がする。炎タイプのポケモンみたいに、まるで焼き焦がされるような視線だった。
「あ……えっと……?」
助けを求めようにもトウヤ君はさっきからずっと怖い顔をしていて声が掛けづらい。男の人達は赤面したまま何も言わないし、どうしたらいいんだろう。
と思っていたら、暫くして白い方の人が何か呟いた。
「かっ」
「……え?」


「名前ちゃん、すっ! ごく!! 可愛いいいーっ!!」


7両目に響いたそれはまさに魂の叫び、だったと思う。



* * *



白い人が黒い人と握った手を『ブンブン』なんて擬音が目じゃないくらいに振る。
私はびっくりして、何も言葉が出なかった。

「すごい! ノボリ!! すごいよ見て!! 名前ちゃん可愛い! すごく可愛い! トレインの中の名前ちゃん可愛すぎる!」
「……!! ……っ! ……はぁっ!! はぁ……はっ……!!」
すると黒い人が突然胸元を鷲掴みにして、カクンと膝をついた。
「って、え!? ノボリ大丈夫!?」
前かがみにうずくまる彼はすごく苦しそうだ。
ちょっと心配になって声を掛けようとしたら、そっぽを向いたままのトウヤ君に止められた。やがて落ち着きを取り戻した黒い人が声を荒げて言う。

「申し訳ございません! 近距離で見るナマエ様があまりに可憐なので、呼吸困難に!!」


え、ええっと……呼吸困難?
理由はいまいちよく分からないけど、とにかく黒い人が無事みたいでよかった。

「なんだぁ、驚かさないでよノボリ!」
「しかし、名前様で窒息するならそれもっ……ブラボー! 名前様スーパーブラボー!!」
「……聞かなくていいからな名前。はああ、やっぱ意地でも連れて来なけりゃよかった……」
「え? どういうこと?」
トウヤ君を見たら、今度こそ思い切り顔を逸らされた。そして、何かを諦めたような溜息一つ。彼はキャップの鍔を下げつつ話してくれた。
「……悪い名前。実はオレ、名前をここに連れてくるよう頼まれた……というか脅されてたんだ」
「……え、ええっ!? 誰に?」
トウヤ君が顎で示した先には、もちろん白と黒の彼らしかいない。

「脅迫なんて人聞き悪―い。れっきとした取引!」
「ええ、BP3倍と引き換えでございます。わたくしはこの際、5倍にしても良いのですが」
「汚い大人め……」

ああ、トウヤ君が怖い顔してたのってこれが原因だったんだ。私かと思って、ちょっとだけ不安だった。
それにしても、なんで私を? それこそ、何かしちゃったのかな私。
と、表情から読み取ってくれたらしいトウヤ君がそんな疑問にすぐ答えをくれた。


「この人ら、名前のことが大好きなんだってさ」
「……へ」

今度は間抜けた声が出た。好き、『好き』っていうのは一体どういう意味、なの。

「申し遅れましたが、わたくしサブウェイマスターのノボリと申します。通学されている名前様を一度拝見した時よりずっとお慕いしておりました……!」
「ぼくクダリ。サブウェイマスターをしてる。ポケモンバトルとダブルバトルが好き、名前のことはもっと大好き! 来てくれてありがとう!」
「わざわざこんなことしないで普通に話しかけりゃいいのに……」
「ぼくらシャイだから」
「わたくし共は照れ性ですので」

開いた口が塞がらないっていう状態を初めて理解した。だって好きって、やっぱりそういう意味で、これって。どうしよう、意識したらすごく恥ずかしくなってきて顔が熱い。
人ってどこで見られてるか分からないものなんだなぁ。

「! 恥ずかしがってる名前、すっご……かわっ……!」
「ブラボー! 上気する名前様、スーパーブラボォー!!」
「黙れこの変態双子」
ノボリさんとクダリさんに煽られて、もう前を見ることもままならない。ここは前に進み出てくれたトウヤ君の背中に頼る事にした。

「トウヤの位置ホント羨ましい、むかつく」
「焦りは禁物でございますクダリ、トウヤ様絶対に許しません、これからの勝負が本番でございます故!」
「ノボリさん、心の声思いっきり漏れてる」
「そーだよねノボリ、だってこの勝負勝ったら名前ぼくらのもの!」

なんとか火照りが冷めてきたと思ったら、クダリさんの予想外な発言にまた驚かされた。
ぽかんとしているところを見ると、トウヤ君も同じだったみたい。

「ぼくらがこの勝負で勝ったら」
「わたくし共が勝利しましたら」

電車の騒音に革靴の音が混ざり、背中合わせに並んだ白黒。そして彼らは二人同時に真っ直ぐ私を指差した。

「名前、ぼくと結婚を前提にお付き合いして!」
「名前様、わたくしとお付き合いを前提に結婚して下さいまし!」


手袋をはめた二つの手が、まるでちかちか光ってるみたいで身動きが取れない。不思議な人達だけどさすがサブウェイマスターさん、ビシッと決められると迫力が違う。ちょっとだけカッコイイかもしれない。

「どこがシャイだよ、どこが! 案の定めちゃくちゃな事言うだろ!」
と、的外れな感動をしていたらトウヤ君が叫んだ。ふと見た彼の目には、鋭い光が宿っている。

「名前、勝手に連れてきたお詫びに本気の本気でバトルするから。絶対勝とう」
本当に、本気の時の目だ。ポケモンバトルが好きなトウヤ君はやっぱり負けたくないんだなぁ。



「えーと……」


でも、私は誰にどう返事をしたらいいのか分からなくなってしまった。


YESひとつ

(この些細な決断が今後の人生をも左右させる事)
(その事を少女はまだ何も知らないのであった!)





本当に遅くなってしまい本当にごめんなさいい!orz
親愛なる桜花さんのサイト「迷走するサヴァン」様との相互記念に捧げます!

サブマスとしての力を存分に使ったサブマスがご覧の結果です。
サブマスギャグ、のリクでしたがギャグなんでしょうかこれは!^^;
まさかのトウヤ落ちを追加して選べる3種類、お好きに妄想して下さいませ(笑)

こんな奴ですが、これまでもこれからもよろしくお願いします!(*´▽`*)

(12.2.6)




←back






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -