名目「勇者」お断り!



神様。私がいったい何したっていうんですか。

私なんて自他ともに認めるただの村娘Aじゃないですか。街の中をうろうろしてて、旅人さんに話しかけられたら「この村はいいところよ。うふ」とか言ってるのが役目の超モブじゃないですか。

それでいいです。
別に有名になりたいとかそんなこと、私思ってませんから。


なのに…。なのに…!!


「キミが伝説の勇者?ふーん、オンナノコだったんだ。でもキミ可愛い!可愛い女の子の勇者っていうのもいいかもね!あ、ぼくクダリ!よろしくね、勇者サマ!」
「わたくしノボリと申します。伝説の勇者様に付き従いサポートするのが役目でございますので、なんなりと仰ってくださいまし」


知りません…!!
誰ですか勇者。誰ですか貴方たち。

腰が抜けた私を覗き込むのは、真っ白なローブの笑顔の人と、真っ黒なローブの仏頂面の人。
視界の中の二人の顔が、ぐにゃりと歪んだ。


「…っふ、ふえぇぇぇん!!!」

「え!? どうしたの、どっか痛いの?大丈夫!?」
「勇者様!?」


混乱のあまり、とりあえず私は泣いた。


そもそも私がどうしてこんなことになったのか。
私はただ、村外れまで果物を採りに行って、その帰りにそこで日向ぼっこしてたらしい魔物さんを踏んづけてしまっただけなのに。あ、これ全然「ただ」で済む問題じゃないですね、あはは。

もちろん怒り狂った魔物さん達に追いかけられ(いつのまにか増殖してるし!)、咄嗟に逃げ込んだ洞窟は行き止まり。
恐怖で足が縺れた私は、とりあえず転ぶまいと地面に刺さっていた細長い棒状の何かを支えにしようと手を伸ばした。


すぽん。


「ぅえ?……へうっっ!!」


思いのほか簡単にすっぽ抜けてくれたそれは支えになるはずもなく、私は顔面で洞窟のでこぼこした地面を磨くハメになった。痛い。おでこと鼻がじんじんする。

背後で魔物さんが爪を振り上げた。

なんですかこれ。私の人生ここで終わりですか。あんまりです、きっと私、何百年に一度レベルの不幸の星のもとに生まれたんだ。ああお父さんお母さん、先立つ不孝を許してね…!

ぎゅっと目を瞑った私はだから、そのまま握りっぱなしだった棒がまばゆく輝いたことなんて知る由もなかった。


「《楚は哀れなるスケープゴート。裂け闇刃、喰らえ闇獣》!いっくよーっ!」


轟音。頭の上からぱらぱら小石が降ってくる。あ、生き埋めフラグですか。やな死に方。

でもいつまで経っても痛みはやってこない。


「……?」


ゆるゆる目を開けてみたら、ロッドを片手に膝をついた男の人とばっちり目が合ってしまった。…黒いローブを纏った、男の人と。


「ひっ!? く、黒魔導士!?」


なんてこと。魔物たちの中にこんなのもいたんだ。ああ私、呪われながらじわじわ死んでいくんだ…!


「動かないでくださいまし。傷が広がってしまいます」
「ごめんなさいごめんなさいどうせなら一思いに楽にしてくださいっ!!」


お尻だけで後ずさろうとした私の腕をがっしり掴んで、黒魔導士の人はロッドを構えた。うぅ、魔導士のくせに握力強すぎる!


「《女神の御元、癒しの翼よ。吹かせる風を。彼の者に祝福を》」


ぽわ、と暖かい光に包まれた。擦りむいた膝とか肘の傷がすぅっと消えていく。おでこの痛みもなくなった。


「え?ぅえ?」

「だいじょーぶ?勇者サマ!」


黒魔導士の人の隣に、おんなじ顔して正反対の真っ白のローブを着た人がしゃがみこんだ。


「キミを追いかけてきてたのはみんなまとめてやっつけたから、安心してね!もう大丈夫!」
「だ…」
「ん?」
「誰、ですか…、貴方たち……」


黒魔導士(?)の人が、私が握りっぱなしだった何かを目の前に差し出した。


「なにこれ…」


黄金の細剣。こんなの見たことない。


「キミがこれを引き抜いた。ぼく達を目覚めさせた。だからキミが、勇者サマ」


白魔導士(?)の人が、私を引っ張り上げながら笑った。


そして、話は冒頭に戻る。
物語はここから始まる。


…の、ですが…。


「ややややや無理無理無理、無理ですよっ!!そそそんな、勇者なんてガラじゃないし魔王と戦うとか怖いし私体力ないし!!」


ただの村娘Aな私にそんな大役勤まるわけないじゃないですかっ。というわけで、現在進行形で私はダダをこねまくっているわけです。

だいたい剣を抜けたら勇者とかわけわかんない。どう見ても剣じゃなく棒だったし、私は転ぶのが嫌で掴まろうとしただけだし(転んだけど)。


「あの剣は普通の者には抜けません。つまり貴女様には勇者の素質があるのでございます」
「勇者なんて言わないでくださいっ!」


そんな単語、聞くだけで嫌だ。黒い人は悪くない、わかってるけど、八つ当たりのように叫んでしまった。

だって、考えれば考えるほど…怖い。


「なんで…?なんで私なの?そんなの務まるはずない…っ、怖いよ、」


黒い人も白い人も悪くない。この人達にとっては、剣を抜けた人についていくっていうのが役目なんだろうから、本来ならこんなふうにぐずってるべきじゃない。わかってる。わかってるけど。


「だいじょーぶ。落ち着いて」


いい匂いに包まれたと思ったら、真っ白なローブの中にくるまれていた。


「よしよし。大丈夫」


白い人、クダリさんだっけ?
あやすように背中を軽く叩かれて、私は目の前の肩に思わずすがりついた。細く見えるのに、意外と肩幅あるんだ…。


「ね。キミの名前は?」
「え…、」
「勇者サマじゃないんなら、キミの名前きかなくちゃ。呼べないでしょ」
「…名前」
「名前様。良い響きでございますね」


黒い手袋をした手のひらが、ぽすんと頭に乗せられた。


「勇者様ではなくとも、名前様が剣を抜いたことは事実。わたくし達は名前様についていき、お守りしましょう」
「すぐに魔王倒せってわけじゃないよ。観光気分で旅しながらでもいいんじゃない?ってこと!」
「…それでいいの?」


黒い人のロッドと白い人のメイスが、空中で高い音を響かせてクロスした。


「まずはわたくし達も、もっと強くなりませんと」
「勇者サマなオヒメサマを守ってあげないとね!」




(世界じゃなくて、この人達を守るためなら…強くなれるかも)
(世界より個人を優先しちゃうなんて、全然「勇者」じゃないでしょ?)







花影さんのサイト「歌のとおりみち。」様との相互記念に頂いた作品です!
ノボリさんの沈着な白魔導師っぷりがまるでお父さんのような安定感//
そして勇者ちゃんを宥めるクダリさんに悶えまくって危うく魔物化しかけたのはこの私です(キリッ
ちょっと勇者サマなオヒメサマ一行に倒されて来ますワァーイ!!ε=┌( ^o^)┘


素敵な作品をどうもありがとうございました!^^//

(11.8.29)





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