だましうち



「ねぇ、何か怪談話してよー」

「何です藪から棒に」



2人の仕事も終わって今は事務室で休憩中。夜も随分遅いせいか、今この部屋にいるのは私とノボリ、クダリの3人だけだ。



「いや、夏と言えば怪談でしょ?何か1つくらいは知ってるんじゃないかなって」

「怪談…ですか。クダリは何か知っていますか?」

「話自体は知らないけれど、肝試しのスポットなら知ってるよ!」



クダリの予想を上回る発言に、私は驚いて言葉を失った。だってクダリがそんなの知ってるとは思わなかった。



「どこ!教えてっ!」

「どこって…ここだよ?」



しん。
場が一瞬で静まり返った。私はおろか同じサブウェイマスターであるノボリでさえ目を見開いて動きを止めている。



「わ、わたくしそのような話は一度も耳にしたことがございませんが」

「僕も直接聞いたんじゃなくて、駅員たちが話してた立ち話をたまたま聞いただけだよ?何でも倉庫の奥に開かない扉があるんだとか」



「倉庫の奥…扉などあったでしょうか」

「確かめに行こう!」



私の一言にクダリは口元の笑みをいっそう深くし、ノボリはこめかみを抑えてため息をついた。



「名前様ならそう仰ると思いましたよ」

「僕も。でも行ってみたいかな!」



勢いよく立ち上がった私に続くように、白と黒もゆるゆると立ち上がる。

さあ、出発だ。




+++++++++




「こ、これは…さすがに雰囲気ありすぎない?」



暗い廊下に木霊するのは3人分の足音のみ。廊下の角などに設置された非常用の赤い光が不気味さに拍車を掛けている。



「駅員たちの話だと、扉の近くでは赤い目をした何かと遭遇するんだってさ。実際に会った人も何人かいるらしいよ」

「所詮"らしい"でしょう。噂に尾ひれがついているに決まっています」



ノボリは全く怖くないのか、普段と歩くスピードは変わらない。私とクダリは互いに手を繋ながらその後ろをついていく。



「…ここ、ですね」

「開いてる…?」



どんよりとした空気を纏って、遭遇への入り口はぽっかりと口を開けていた。電気はついていないため、中の様子は全くわからない。

その中へ臆することなくノボリは足を踏み入れていく。



「ちょ、待ってよノボリ!」

「2人とも早く来て下さいまし。扉の有無を確かめるのでしょう?」

「それはそうだけど…っ」



縋るようにクダリの大きな手のひらを握り締めて、私もノボリにならって一歩を踏み出す。もともと狭い倉庫、扉までたどり着くのにさほど時間は掛からなかった。



「うわ…本当にあった…」

「ですね…これはわたくしも驚きました」

「…開かない、のかな」



クダリが確かめるように錆び付いたノブを回そうとするが、びくともしない。"開かずの扉"の噂はどうやら本当のようだ。



「じゃ、早く帰ろ!僕もうこんなところにいたくな…」



クダリがノボリを見た瞬間にぴたりと動きを止めた。
その視線の先を何気なく見て、私も言葉を失う。ノボリの背後に、ゆらめく青い炎の影。


叫ぶよりも早く、私はとても強い力で引きずられるように倉庫を飛び出した。私の手を引くクダリはこちらを一度も振り向くことなく、ただひたすらに駆けてゆく。



ある程度倉庫から離れたところで、クダリはやっと止まってくれた。荒い呼吸を何とか宥めながら、私は口を開く。



「あ、あれ…本物?」

「わか…ない。…あれ、ノボリは?」



クダリの言葉に振り返っても、見慣れた黒は見当たらない。最悪の想像が脳裏をよぎる。
かといって探しに行けるほどの勇気があるわけではない。

クダリと話し合った結果、私たちは事務室でノボリの帰りを待つことにした。




+++++++++




風のように走り去った2人を、ノボリは動じることなく見送った。



「2人とも、まだまだですね」



背後から姿を表したのは、シャンデラ。彼を象徴する青い炎は妖しくゆらゆらと錆びた扉を照らしている。



「さて…わたくしたちも帰りましょうか。シャンデラ、お疲れ様でした」



シャンデラをボールに戻して、倉庫に踏み入れた時と同じスピードで戻っていく。

そのノボリの背後で、赤い双眸がふわりと煌めいた−−…







桜花さんのサイト「迷走するサヴァン」様との相互記念に頂いた作品です!
怖がりなクダリさんにちょっと悪戯心のあるノボリさん、どちらも素敵ですエヘエヘ!//
途中の展開には少しザワッ((゚ω゚;))としました…!
そしてオチがかなり私の好みなもので!もう堪らない!><


素敵な作品と夏の風物詩(?)をどうもありがとうございました!^^//

(11.8.29)




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