キスの温度は37.0℃ 



「ダメ。名前こっち」
「こっち、ってちょ、わ…っ」


クダリさんが繋いだままだった手を引いて、かなり強引に人波をかきわけて車内を移動し始めた。
道を開いてくれてるのはクダリさんだから、私は手を引かれるままその後ろをついていって…


「名前、ここ。ここなら大丈夫!」


行き着いたのは座席の角。ドアの脇。

そこに私を押し込めると、クダリさんは私の顔を挟むように壁に肘をつけた。

あ、息ができる。


「苦しくなくなったでしょ?」
「はい…」


クダリさんが背中で人波をガードしてくれてるおかげで、私の顔の周辺は空気が確保されて気持ちの悪さが解消されていく。


「でもなんか…すみません。押されてますよね、大丈夫ですか?」


私だけ幾分か快適でも、車内の人口密度は変わってないのだ。


「いいの!電車に乗るのがぼくのお仕事!」


それに、と、クダリさんの指が私の唇に触れた。
片腕が離れたせいで、クダリさんの背中にかかっているだろう負荷のバランスが崩れて、一瞬体がぐらついた。


「ク…、ん」
「名前、顔色よくなってきた。ぼく、それが一番うれしい」


唇を軽く押されて、クダリさんの指をダイレクトに感じてしまう。どうしよう、がさがさじゃないかな。リップぬっとけばよかったかも。

見上げたら、髪と同じ灰色の瞳と目があった。


「名前」


指の動きが、押す動作から、触れるか触れないかギリギリのラインでなぞる動作に変わった。それは彼が、劣情を抑えているときのサイン。

こんなに助けてもらってるのにそれを汲めないほど、意地悪にはなりたくない。
私はゆっくり目を閉じて、解放の許可を出した。


触れるだけの、フレンチキスだった。
一応、ここが公共機関内だということはわかってるっぽい。いつもならもっと……って今のはナシ!


ガタン!電車が揺れた。


「!?、んぅ…」


私を守ってくれている彼の背中にも当然の負荷が増えた。
それにより、意図せず深いものになってしまった繋がりは、ついでにクダリさんのスイッチも入れてしまったらしい。

いつまでやってるつもりですか。翻弄されて、頭にくらくらと靄がかかってくる。
今は立ってるんですよ、ダメですってば。私、力が抜けちゃうから。へたりこんじゃうから。

クダリさんの胸をことこと叩いたら、ようやく離してもらえた。
さっきまでしていたことのせいで、ほんの少しだけ上気した笑顔が三割増しで色っぽい。


「名前、顔青くなくなった。真っ赤」
「…誰のせいだと、」
「ん。ぼく」


しれっと言い放たれたのが悔しい。

普段は可愛いのに、一度スイッチが入ると私は翻弄されっぱなしの恋人。
手の上で遊ばれてるようで悔しくて、でもきっと、こんなクダリさんは私しか知らなくて。それはちょっと嬉しくて。

やっぱり私は、見た目はかっこよくてスイッチが入れば中身もかっこいい恋人のことを甘やかして許してしまったりするのである。



37.0



「そういえば、私もしかして吐きそうなくらい酷い顔してました?」
「うん。今日の名前、せっかくお洒落してるのに汚しちゃうのダメ!」
「あはは…。それで守ってくれたんですね」
「名前すごーく似合ってる!可愛い!…脱がすのも、楽しみ」
「…………はい?」


あ、あれ。今なんか聞き捨てならない言葉がくっついてたような…。

わ、私、明日ちゃんと起きられるかな……。







恐れ多くも花影さんのサイト「歌のとおりみち。」様の11111HITを踏んでキリリクさせて頂いた作品です!
凛々しくて健康な男子のクダリさん万歳ですヘヘヘ!
花影さんの作って下さったそのバランスが絶妙過ぎてもうニヤニヤが止まらない止められない!(カ〇ビィイイイ!!
素敵な作品と鼻血をどうもありがとうございました!^^//

(11.7.31)




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