大丈夫、問題ない 
05



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いい加減にやめろ、とばかりに睨むキリキザン。それに対してラプラスはケラケラと楽しげに笑い、あまり深くはない池の中へ身体を沈ませてしまった。

「ほら、これ。好きでしょう?」

茂みから戻ってきた私に一瞥もくれない彼に差し出したのはクラボの実だ。大人しく受け取った彼はひょいと口の中に放り入れ、一口で完食してしまった。それでも治らない機嫌の悪さに、私はまったく心当たりがなく、一周回って苛立ちすら感じ始めている。

「キリキザン」
「…」
「本当になに?言って」
「…キリリ」
「…え?」

腕を広げてジッとこちらを見つめるキリキザンに、思わず動揺して一歩後ずさってしまった。しかしその間すらも埋めるかのように彼は私の手を引く。赤いしぶきが放物線を描いて地面へとシミを作った。うまく身体を滑り込ませる事ができたようで、引かれた手以外で私の身体に傷はない。つるりとした胸元は冷たくて、やっぱりあの時の暖かさは自分の血だったんだと今さらながら気付く。

「…あなたって甘えん坊な性格だったかしら」
「キリ」
「うそうそ、冗談よ。でも今日はちょっと寂しかったんでしょう?」
「…」
「また黙っちゃって…。次のバトルはあなたを使うわ。約束、ね?」
「…キリッ」
「そのかわり相性が悪くても頑張ってよ」
「キリリ」

ピーチチッと遠くでポケモンの鳴き声が聞こえて来る。穏やかな日差しに、池から出てきたラプラスが作り出した水飛沫の乱反射が眩しい。ワンワンと嬉しそうに駆け回るイワンコと日向ぼっこを楽しんでいるエンニュート。ゆったりと訪れる眠気に身を任せ、私は静かに目を閉じた。

キリキザンが三日月よりも弓なりに目を細めて、赤い染みを撫でていた事など、目を開かなくったって私にはわかっている。



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