「ふぅおォォォォ……いででで!!」




サッカー日誌





泉は部室の隅でうずくまっていた。よく分からない呻き声をあげている彼女はかなり不気味である。鬼道有人は顔を引き吊らせながらそんな泉を見ていた。




「朝倉。」

「きどォォォォォいてェェェェ!!」




声をかけると、バッと振り返った泉は彼のマントを鷲掴みにして騒ぎ始めた。ああ、面倒臭い。鬼道は小さく溜め息を吐いた。今日はほとんどのメンバーが委員会で遅れるためにちゃんとした練習が出来ない。だから泉とイナビカリ修練所に行こうとしていたのだが、当の本人は部室に来たときから何故か膝を抱えたまま呻いていた。




「痛い!マジ痛い!!最悪だちくしょォォォォ!!」

「叫ぶな。痛いだけじゃ分からないだろう馬鹿。」

「ばかァ…鬼道のばかァァァ……。」

「お前な、」




本当になんなんだ。この朝倉泉という少女は鬼道の知る女子とは随分と違っていて、しつこく媚びを売ることはないものの、言動の意味が全く分からない。理解出来ないのだ。彼女の言動を完全に理解しきれている人間といえば豪炎寺であるが(彼は何故か泉のお目付役になっている)、生憎彼も委員会で不在である。鬼道はガクリと肩を落とした。





「…朝倉、俺は痛いだけじゃ理解出来ないんだ。ちゃんと説明してくれないか?」





未だに呻いている泉の頭を、鬼道はそっと撫でた。それに驚いたのか、泉は目を見開いて彼を見る。静かになった彼女に、鬼道はフッと笑ってその隣に腰を下ろした。




「どこが痛いんだ?」

「……お、なか…が痛い。」




すっかり落ち着いた泉はポツリポツリと話し始めた。どうやら彼女は月に一度の女子の日らしいのだが、最近定期的に来なかったために久しぶりの痛みに耐えられなかったという。




「薬とかないのか?」

「昼休みにきたから、持ってない。」




さて、どうしたものか。保健室に連れて行くという選択肢もないわけではないが、今の彼女の状態では歩くことすらままならないだろう。






「すまない、遅れた。」





ガラッと部室の戸が開いて、現れたのは逆立った白髪。豪炎寺だった。




「どうしたんだ?」

「あ、あぁ…朝倉が腹痛でな、」




薬も何もないから困っていたんだ。鬼道がそう言うと、豪炎寺はガサガサと自分の鞄をあさりはじめ、中から小さめの箱を取り出した。




「だから持ち歩けと言っただろう。鬼道に迷惑かけて…、」

「今日くるなんて思ってなかったんだよ…。」




お前は母親か。鬼道は危うく出そうになった言葉を飲み込んだ。薬(水なし一錠、どこでも飲めるよ)を飲んだ泉の背を優しく撫でる豪炎寺は見たことがない程に優しい顔をしていた。




「ごめん、鬼道。」




シュンと叱られた子犬のように項垂れる泉に、鬼道は思わず笑みを零した。雨の日にサッカーが出来ないと残念がっている円堂にそっくりだった。





「気にするな。俺の方こそ役に立てなくてすまなかった。」

「違う、私が騒いでたから…。本当にごめん。」





大丈夫という意味を込めて、もう一度泉の頭を撫でる。今度は気持ちよさそうに目を細めた彼女に、早く良くなるといいなと言って鬼道はその場を後にした。















少しだけ、理解出来た気がした


(鬼道!あのなあのな、さっき円堂が!!)

(朝倉、とりあえず順番に話そうな。)







※翌日からお目付役その2に任命された鬼道さんでした(笑)












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