「「……あ、」」
病院の廊下で、俺達は互いを見て目を見開いた。
サッカー日誌
いつも通り夕香の見舞いに来た俺は、帰ろうと病室を出た際に、バッタリと朝倉に会ってしまった。
朝倉も朝倉で驚いているようで、固まったまま動かない。
しばらく沈黙が続き、先に口を開いたのは朝倉だった。
「…あー……妹さん、いるんだ…っけ…?」
「…あ、あぁ。」
そうかそうかと、ぎこちなく笑う朝倉。手元を見ると、小さめの袋を持っていた。
「…朝倉、」
「んー?」
「それ、」
袋を指差すと、朝倉は「しまった」というような顔をした。
何度も目にしたことのあるその袋は、稲妻総合病院のものだった。
父さんがここで働いているせいか、毎日のように夕香の見舞いに来ているせいか、見慣れてしまっているそれを、朝倉はそっと隠そうとしている。
俺は朝倉に数歩近付くと、彼女の手から袋を奪い取った。(決して暴力的な意味ではない。借りただけだ。)
「朝倉。」
「……はい、」
「これは何だ。」
中に入っていたのは、たくさんの薬。
種類別にしてある封筒には、全てに朝倉泉の文字が書かれていた。
「体調、悪いのか?」
「……あ、…う、」
「……朝倉。」
少し屈んで視線を合わせ、なるべく優しく呼べば、困ったような顔をする朝倉。
ハァ…と溜め息を吐いて、諦めたように話始めた。
「最近、夜になると咳がひどくて。」
なかなか眠れないんだよなー。そう言って笑った朝倉の目元には、心なしか隈ができているようにみえた。
そういえば最近、部活中にもよく咳をしていた気がする。
昨日は3時間目あたりから保健室にいたらしく、授業中席にいなかったし、今日の体育も珍しく見学していた。
そこまで思い出して、俺は頭を抱えたくなった。
明らかに体調が良くないじゃないか。俺は馬鹿か馬鹿なのか。なんで気付かなかったんだ。
ガクリと肩を落とし、自己嫌悪に陥っていると、クスクスと笑い声が聞こえた。
顔を上げると朝倉が腹部を抑えて笑っていた。
「そんな大したことじゃないんだ。豪炎寺がそんな顔するなよー。」
そう言って尚も笑い続ける朝倉に、俺はホッと息を吐いた。
「そうだ!一緒に帰らないか?」
「…あぁ、構わない。」
頷いた俺に、朝倉はフニャリと笑った。
朝倉がありがとうと言ったように聞こえたけれど、赤くなった顔を隠すのに必死で気付かなかった。
顔が赤いのは夕日のせいです
(あ、アイスクリーム食べたい!)
(夕飯食えなくなるぞ。)
(えー…。じゃあ豪炎寺と半分こしよう!)
(…コンビニ寄ろうな。)
※「豪炎寺と半分こ」にときめいた豪炎寺くんです(笑)
※というかヒロインは、馬鹿で運動神経いいクセに身体弱いのか。そうなのか。