風邪っぴきの豆腐メンタル
「……しんどい、」
サッカー日誌
風邪を引いた。ちょうど試合がない時期だから問題ないのだけれど、さすがに3日も続くとキツい。母さんも父さんも長期出張中。葵は念のためにと響木さん宅に預けてある(パシリを手に入れた響木さんはこの上なく嬉しそうだった)ので、今は家に1人なのだ。ダルい身体で三食作らなければならないし、寝ている最中でもインターフォンや電話が鳴ったら出るのは私。更に一時間に一回のペースでサッカー部メンバーからメールがくるものだから堪ったもんじゃない。「ゆっくり休んでね。」とか嘘だろお前ら。「お大事に。」とか思ってねぇだろお前ら。
「あぁぁあぁ………。」
頭が痛い。いっそのこと着信拒否にしてやろうか。半田からきたアイスクリームの写メに「くたばれ一般人代表。」とだけ返してベッドにダイブした。
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ピンポーン。インターフォンの音に目を覚ます。時計を見れば30分も寝ていないようで、若干苛立ちながら玄関へと向かう。なんかの勧誘とかだったら塩ふっかけてやる。
「どちら様で、」
「あ、みょうじ!!」
バタン。一瞬、見慣れたバンダナが目に入り思わずドアを閉めてしまった。きっと熱が上がってるんだ。だってそんなの有り得ない。そうだ、寝よう。そうしようそうし「みょうじ!なんで閉めるんだよ!?」神様、どうか私に安らぎの時間を与えてください。
「……………なんでいるんだ。」
再度ドアを開けば、幻覚でもホログラムでもなく。確かに我らがキャプテン円堂守がサッカー部員を率いてニカッと笑顔を作っていた。なにもこんな大人数で病人の家に押し掛けなくてもいいじゃないか。まぁ、心配して来てくれたのだろうから文句は言わないが。「遊びに来たんだ!」「ごめん、今すぐ帰れ。」それでも見舞いだとお菓子やらジュースやらを貰って機嫌が良くなる私は現金な奴だ。とりあえず、立ち話もなんだからと中に招き入れてお茶を出す。秋が慌てたようにキッチンに来て私からカップやポットを取り上げた。「病人は休んでなきゃ!!」心底心配しているという顔の秋を見たら、君らが来たから休めないなんて言えなかった。
「家の人は誰もいないのか?」
「あぁ、みんな帰ってきてないよ。」
大してお腹も減っていないので、もらったお菓子には手をつけずにお茶だけ飲んでいると、さっきまでキョロキョロと周りを見渡していた豪炎寺がグイッと眉間にシワを寄せて尋ねてきた。嘘をつく必要もないのでありのままに答えると、なんだか悲しそうな顔をされる。いや、別に放置されてるわけじゃないから。寧ろ私が帰ってくんなって言ってるようなもんなんだから(実際、葵は最後まで俺が看病すると言ってきかなかったのだ)。今までだって同じようなことはあったし、寂しくないと言ったら嘘になるけれどとっくに慣れた。
「移しちゃったら嫌だしね。」
ちゃんと笑えているだろうか。やっぱり熱が上がってきたのか、涙が視界をぼやけさせる。慣れた、はずなのに。風邪を引くと人肌が恋しくなったり、ネガティブ思考になるというのは本当らしい。みんなが帰ってしまった後を思うと寂しくて寂しくて堪らなくなった。
「ほら、みんなも風邪引きたくないだろ?」
私は大丈夫だから帰りなよ。少々追い出すような言い方にはなったが、これ以上一緒にいても後が辛くなるだけだ。早く風邪を治せばまた直ぐにあえるのだからと自分に言い聞かせ、入り口に向かって円堂の背中を軽く押す。
「みょうじ、」
「もう見舞いとかいいからさ、」
辛い。寂しい。苦しい。寂しい、寂しい。頭が痛い。クラクラして足が動かない。私はこんなにも弱かったのかと思ったらまた泣きそうになった。ふらりと倒れた私の体を横から豪炎寺が受け止めてくれた。次第に瞼は重くなって、少しずつ意識が遠のいていく。
「もういいならなんで……、」
円堂が何かを言っていた気がするけれど既に私はそれを聞き取れる状態ではなく、ただ優しい温もりに包まれたままに夢の世界へ旅立った。
「なんで泣くんだよ。」
風邪っぴきの豆腐メンタル
(脆くて崩れやすい)
目を覚ました時、側で私の手を握りながら眠っていた君たちに酷く安心した。
※楓香様!遅くなった上になんだかよく分からないものになってしまって申し訳ありませんでした。よろしければ貰って下さい!
※キリ番、リクエストありがとうございました!!