そうして貴方は笑うのだ
※勇太とヒロイン成人してます
わたしの大好きなひとは、青くて大きくてかっこいいひとです。そのひとはけいさつのおしごとをしていてとてもいそがしいです。だからわたしはなかなかそのひとに会えません。すごくかなしいです。わたしのママが「愛は苦しくて辛くて幸せなものよ。」といっていたのできっとこれが「あい」なんだとおもいます。そういえばこのあいだママとおでかけしたときに、お友だちのゆーたくんが青くて大きくてかっこいいひとといっしょにいたのをみました。あのときはなんだかへんなきもちになってしまって、それがいやだったのでママのスカートをギュッとしてゆーたくんと青いひとがみえないようにしました。あれはなんだったのかまだよくわからないです。あしたは学校があるので、えみりちゃんにきいてみたいとおもいます。
「ブッ…!!聞いたかみんな!なまえの好きな人は青くて大きくて格好いい人だってよ!!」
「ちょっ…パワージョーまじ何やってんの!?分解するよ!?ねぇバラバラにするよ!?」
今日はロボット刑事課みんな揃ってデッカールームの大掃除。そこでパワージョーが見つけたのは昔私が書いていた日記で、嫌な予感がした私は取り返そうとしたのだけれど、普通の人間が自分より遥かにデカいロボットに適うはずもなく、ピンク色の可愛らしい日記帳の中身はパワージョーの大きな声で音読されたのだった。当時小学生だった私が警察官なんてなれるわけもなく(勇太は別として)、"青くて大きくて格好いい人"と仲良くなるどころか近付くことも出来なくて、それに対しての不満や勇太への嫉妬心丸出しな悪口をたくさん書いたのがあの日記帳なのだ。
「いいねぇ、デッカードの旦那は。」
「なまえに好かれるとか…、想像しただけで吐ける。」
とりあえずガンマックスは後で藤堂さんに手伝ってもらいながら分解することにした。
「それにしても、なまえが好きな人がデッカードだったなんて…。」
心底驚いたというような顔をしながらそう言った勇太に、引いてきていた熱が再び顔に集まってくる。「なまえも女の子だったんだねー。」しばくぞドリルボーイ。ニヤニヤと嫌な笑みを向けてくるパワージョーの片手には、未だにあのピンクの日記がある。私が警察官になったのは20歳の時。それからは冴島総監に認めてもらえるよう、毎日毎日寝る間も惜しんで猛勉強をした。そして2年前、24歳の春にやっと憧れのロボット刑事課に配属されたのだ。つまり、私が小学生だった頃に書いていたあの日記帳がここにあるはずがない。
「おばさんも面白いもん持ってくるよな。」
「アンタか母ちゃァァァァァん!!」
最悪だ。マジ最悪だ。なんだろう、配属される前の方がみんな優しかった気がする。パワージョーだって意地悪しなかったし、マクレーンやデュークは仕事を手伝ってくれたし(と、言っても荷物運び程度だが)、他のみんなも今よりずっとずっと優しかった。
「あーあ、配属される前に戻りたいな。」
ドサドサッ。大きな音を立てて床に落ちたのは、さっき私と勇太が段ボールに詰めた沢山のファイルで。床に散らばるファイル達には見向きもせずにジッと私を見たまま固まっているのは、"青くて大きくてかっこいいひと"だった。
「デッカード?どうし、」
「や、辞めるのか?ロボット刑事課を抜けるのかなまえ!」
何を勘違いしたのかは知らないが、急に悲しそうに顔を歪めて落ちていたファイルをちまちまと拾い始めたデッカード。拾っては手を滑らせて落としている彼は、なんだか動揺しているみたいで。後ろの方で勇太がクスクスと笑っているのが気になったけれど、あの大きな手には豆粒サイズに感じるであろうファイルを拾うのはきっと大変だろうから、手伝うことにした。拾いながらデッカードの顔を盗み見ると、やっぱり悲しい顔をしていた。不謹慎なのは分かってる。だけど、もし私を思ってその顔をしてくれているのなら、例え恋愛感情からきたものでなくとも嬉しいな、なんて。
「私は、ここにいるよ。」
そうして貴方は笑うのだ
(旦那もなまえも熱いねぇ…。)
(いい加減両思いって気付かないのかな。)
(なんだかんだでバカだからな、あいつ等。)
※ごめんなさい。うん、ごめんなさい。
※デッカード、だと思う。