>>勉強しましょ( 3/3 )
「……。」
勇太は算数のワークを見て本日何度目かの溜め息を吐いた。いつもドリルボーイ達と談笑している彼が珍しく勉強をしているのには理由があった。明日、勇太達の学校で算数のテストが行われるのだ。教室の予定表に書かれたテスト日を見たのが当日の1ヶ月も前だったからか、完璧に油断していた。今回の問題はかなり難しいらしく、クラスメートはだいぶ前から焦っていたようだ。勇太がそれに気付いたのは今日の帰りのホームルーム。今まで全く勉強をしていなかった訳ではないが、放課後は毎日ロボット刑事課に来ているために他のクラスメートに比べ、勉強時間は少ない。
「うあー!!わっかんないよぉ!!」
ついに集中力が切れてしまったのか、持っていた鉛筆を投げ出してしまった。そんなボスを見て、ブレイブポリス達は小さく苦笑する。春哉も珍しく手を止めて勇太の様子を見ていた。
「だから何度もデッカードが勉強しろって言ったじゃねーか。」
「いいよねー。パワージョー達は言ってるだけでテストはやらなくていいんだから。」
不貞腐れた顔をしてパワージョーを睨み付けたのだが、「勉強は子供の勤め」と軽くあしらわれてしまった。
「もー……。」
ここで勉強をやめてドリルボーイ達と遊んでもいい。けれど、点数の低いテストの答案を見た姉2人の顔を想像すると、とてもそんなことは出来なかった。勇太は身震いをして机に突っ伏す。
「勇太くん。」
不意に頭上から声がして顔を上げると、そこにはシャーペンとルーズリーフを袋ごと持った春哉が立っていた。勇太が座っているせいか、元々小さいせいか(前者であることを祈る)無表情の春哉が見下ろす形になっていて怖い。
「あ、あの…春哉さん?」
沈黙。春哉は何かを言いたそうに口を開けたり閉じたりしているのだが、一向に言葉が出てこない。勇太の方もなんとなくそれを感じ取っているのか、何も話さず春哉の言葉を待っていた。
「勉強、教えます。」
「………………………え?」
「分からないなら、私が教えます。」
マクレーンは思わず持っていた荷物を落とした。目の前の少女は一体誰だ。春哉はロボット刑事課に配属されてから一度だって自分から話し掛けたことなどなかった。そんな彼女が今、自分の席から立って勇太に勉強を教えると言っているのだ。隣を見ると、口をあんぐりと開けたまま固まったパワージョーがいた。
「あ、あいつが…自分から人に話し掛けている…だと!?」
俺だってまだなのにィィィ!!と叫びだしたカンフー刑事は余程悔しいのか床に拳を打ち付けている(その際床に大きな手形を残し、後々冴島からお叱りを受けたのは何故かマクレーンだった)。とにかく彼女と一番仲の良いパワージョーでさえもあちらから話し掛けられたことがないのだから、マクレーンや他のブレイブポリス達が驚くのも無理はない。ぽかんとした周りを余所に、春哉は自分の椅子を持ってくると勇太の前に座った。
「小学校の勉強なら教えられると思うんです。お節介でしたらやめますが、」
「教えて!教えてください春哉さん!!」
嬉しそうな勇太を見て、春哉の表情も少しだけ和らいだ。
お勉強の時間
(君の優しさを学びました)
-3-
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