試合終了間際に新必殺技を決めた雷門は、見事帝国に勝利し全国へ駒を進めた。
サッカー日誌
帰りの電車の中でうとうとしている泉ちゃんは響木監督にほっぺを摘まれながら睡魔と戦っている。コクリと頭が揺れる度に頬が引っ張られてとても痛そうだ。響木監督は、一度寝るとなかなか起きないから仕方ないのだと言うわりに楽しそうだった。「……き、木野先輩…、」先程、お兄さんである鬼道くんと和解し嬉しそうにして帰ってきた音無さんも隣で顔を引き吊らせている。
「泉、寝るな。」
「…ん、」
なんというか、泉ちゃんがすごく可哀想です監督。
「ちょっとくらいなら大丈夫なんじゃ…、」
頬が赤くなるまで引っ張られても尚睡魔について行く泉ちゃんがあまりにも不憫で、後ろからそっと監督に声をかける。
「あぁ、俺もそう言ったんだがな。」
「…え?」
スッと泉ちゃんの頬を摘んでいた手を離した響木監督は、困ったように笑いながら既に半分程夢の中な彼女の頭を優しく撫でた。
「どうしても、報告したい奴がいるそうだ。」
はっきり誰か言われたわけじゃないけれど、なんとなく予想がついたその人にチクリと胸が痛んで。
「………りょ…う、」
零れ落ちた寝言にすら嫉妬する自分が嫌になった。
──私が殺した。
準決勝の日、確かに彼女はそう言った。苦しそうな、それでも私達を困らせまいと無理矢理に笑っていた彼女の顔。震えていた手には血が出てしまうのではないかというくらいに爪が食い込んでいた。
それくらい泉ちゃんにとって大切な人だった彼。
泉ちゃんのサッカーの原点である人。それはつまり、私達と泉ちゃんが出会うきっかけを作ってくれた人。
感謝すべきだ。こんな、黒くてドロドロした感情を抱くような相手じゃないんだ。
なのに、
「…いやだ、なぁ。」
呟いた言葉は後ろの方ではしゃぐみんなの声にかき消されたけれど、残った虚しい嫉妬はいつまでも消えてくれなかった。
できるなら一番になりたい
(図々しいだなんて)
(私が一番分かってる)