ホイッスルが知らせたのは、試合の開始ではなく鉄骨の落下だった。
サッカー日誌
死ぬ。
真っ先にそう思った。そしたら頭が真っ白になって、このままじゃ本当に死んでしまうというのに身体が動かなかった。
「…………って、あれ?」
瞑っていた目を開くと、鉄骨は一つも私達を襲うことなく目の前でグチャグチャとフィールドに突き刺さっていた。腕良し足良し頭良し。うん、生きてる生きてる。周りをよく見ると他のメンバーも全員無事なようで、みんなただ呆然としているだけだった。「半田!間抜けに見えるから口は閉じとけ!!」「ねぇ、殴りに行っていい?」すぐに円堂がどこかに走っていったけど、響木さんが一緒だったから問題ないだろうし放置。とりあえず腰が抜けて足がプルプルいってるので、豪炎寺に支えられつつベンチに戻ると、全員が無事であったことに安心したのかわんわんと泣いている秋に抱きつかれた。
「よかった、本当にっ…死んじゃったかと、」
首に回された腕が、少し震えている。春奈や夏未は目尻に涙を溜めて優しく手を握ってきた。
「全く、貴方は心配と迷惑をかけることしか能がないの?」
「おーい夏未さーん、鉄骨は私のせいしゃないぞー。」
まぁ、今にも泣きそうな顔して言われても別に怖くないけど(グサッとはきた。うん、グサッと。)。決勝戦の緊張や鉄骨の恐怖が薄れてきたのか、みんなにも笑顔が戻ってきた。
「試合出来るかな……。」
「どっちにしろ円堂はやりたいと言うだろうな。」
「サッカー馬鹿だもんな、あいつ。」
おそらくこの鉄骨は帝国の総帥と言う人が仕組んだことで、それがバレれば帝国学園は試合をする事も許されないだろう。つまりは私達雷門の不戦勝。こんなにも楽な勝ち方はない。だけどきっとあの馬鹿は「決勝戦をやらない」なんて言われたら、また地団駄を踏んで周りを困らせるんだ(そうやって結局は決勝戦をやることになるのが目に見える)。
「せっかく楽に全国行けるチャンスなのになー。」
勿体無い。そう言ってドリンクを呷ると、隣で豪炎寺がクックッとのどを鳴らしながら笑っていた。
「そんなこと言って、一番に円堂の味方になるだろう?」
どうしたって私は円堂には適わなくて、結局は拗ねて膨れたあいつの顔に耐えられず首を縦に振るしかなくなる。私の意思が弱いのか、それともあいつが確信犯なのかは分からないけれど少なからず自覚はあるわけで、
「ならざる終えないだけです。」
悔し紛れに出たその言葉に、目の前のエースはまた笑うのだった。
だって君は特別
(その笑顔で)
(私の世界を変えてくれた)