冬海先生を追い出して、再び決勝戦への練習に力を入れていた私達だったけれど、そこには大きな落とし穴があった。
サッカー日誌
「へぇー、監督いないと決勝戦に出れないんだ。」
「いや、なんでお前そんなに余裕そうなの?」
昼休み、最近仲良くなったミスター・ノーマルこと半田真一と、弁当を食べながらそんな話をしていた。
「いやホラ、なんとかなるんじゃね?」
「根拠は?」
「あ、いや…なんとなく。」
半田の視線が冷たい。さて、どうしたものか。恐らく円堂は自力で新監督を探そうとしているだろう。だけど決勝戦の日はすぐそこまで迫ってきている。少しの時間も練習に費やしたいというみんなの気持ちが分からなくもない。
「うーん…、ぶっちゃけ運動部の先生に頼んだ方が楽だけどな。」
「だけどお前、円堂側につくだろ。」
「正直ただ監督としてきてもらうなら、指示的な意味では役に立たないからな。」
司令塔がいない今の雷門には、フォーメーションや試合中の指示をしてくれる監督が必要だ(冬海先生がそんなこと出来ていたとは思えないが)。今まではなんとか勝ってこれたのは円堂のあの勢いがあったからだ。勝ちたいという強い気持ちで数々の強敵を倒してきたのだろうが、決勝戦の相手は帝国学園。全国ナンバーワンの実力を持つ彼らに、気持ちだけで勝つのは難しいだろう。
「ホント、どうしたもんかねぇ…。」
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「とにかく、探してみないと分からないだろ!!」
放課後、未だにみんなを説得しようと頑張っている円堂を見ながら豪炎寺と新監督についての話し合いをしていたのだけれど、先程からどうもグサッと突き刺さる視線が気になって集中出来ない。キラキラと期待を含んだそれに私が弱いということを、コイツは知っているんじゃなかろうか。確信犯だろ。とりあえず出来るだけこういう時の円堂に関わるのを避けたいので(確実に面倒なことになるから)気付かないフリをしていた私(この際、豪炎寺が冷ややかな目で私を見ていたというのはスルーしよう)。けれどついに痺れを切らした円堂はバンッと机に手をついて叫んだ。
「とにかくみんなで手分けして新監督を探すんだ!!行くぞ朝倉!」
「そこで私をチョイスするのか。」
腕をがっしりと掴まれ、円堂はそのままズルズルと私を引きずるようにして部室から出ていく。うん、腕が痛いです円堂さん。
「誰でもいいって訳じゃないぞ?帝国と戦える人じゃないと。」
さすがは幼なじみと言えようか。さっきまで全く人の話を聞こうとしなかった円堂は、風丸の言葉を聞いた途端にしょんぼりとしながら部室に戻った。やっと解放された腕は若干赤くなっていたけれど、それに気付いたらしい円堂が申し訳なさそうに視線を下げながら謝ってきたのでよしとする。
「そうだな、慎重になるべきだ。」
「じゃあどうするんだよ!?」
小さく呟いた土門に駄々っ子のように地団駄を踏み始めた円堂。あぁ、面倒臭い。チャッチャラーチャラリラーいっけね、携帯マナーモードにし忘れた。「朝倉…。」す、すいません神様仏様円堂様。
「も、もしもし?」
あ、泉?悪いんだけど今日から葵と2人で響木さんちに泊まってくれる?母さん達しばらく帰れそうにないのよ。
「は?いやいや、唐突すぎません?」
だって、母さん達もいきなりだったしぃ…。
「三十路のオバハンが言ってもキモいだけだよ母さん。」
まあ、そういう訳だからよろしくねー!!
「え、ちょっと母さん!?」
それから葵のこと学校まで迎えにいってやって。このこと知らないから家に帰っちゃうかもしれないし。
「いや私まだ部活、」
んじゃまたねー!バイバーイ!!
「話聞けよォォォォォ!!」
嵐のような母からの電話に溜め息を吐くと、まだふてくされた顔の円堂がジッとこちらを見ていた。
「あー……ごめん、ちょっと早退するわ。」
この後、ついに大騒ぎを始めた円堂をみんなに抑えてもらいながら、私は逃げるように葵の迎えに走ったのだった。
run away
(朝倉待てェェェェ!!)
(ちょっ…待っ、豪炎寺ィ!!ちゃんと円堂抑えてろよ!)
(ゴットハンド!!)
(おいィィィィ!!お前豪炎寺が重傷だよ!?なんか首が有り得ない方向に曲がってるよ!?)