18.





何も難しいことなんかない、ただ信じればいい。私達は仲間だと。




サッカー日誌





昨日まで暗い顔をしていた土門くんだったけど、今日の練習ではどこかすっきりしたような顔で楽しそうにサッカーをしている。いつもより積極的にパスを受けにいったり、気合いの入ったディフェンスをしたり。円堂くんの掛け声にも、同じくらい大きな声で元気に応えていた。





「あ、冬海先生またきてるよ。」





少しだけ嫌そうに、顔歪めた泉ちゃんが不意に隣で呟いた。グランドの隅の方に目を向けると、ニヤリと笑みを浮かべた冬海先生が立っている。一体どうしたのだろうか。冬海先生がに顔を出すなんてことはほとんどないからか、それまで一心不乱にボールを追いかけていたみんなもチラチラと先生を気にし始めた。泉ちゃんはそれを見てさらに嫌そうな顔をする。みんなの気が散って練習にならないからちょっと怒ってるんだろうな(現に今、染岡くんがシュートを大きく外してしまった)。





「……なんだよ今更、さっさと帰っちゃえばいいのに。」

「ま、まあまあ…。」





今にも舌打ちして殴りかかりそうな泉ちゃんを宥めていると、今度は夏未さんが現れて、みんなはさらに集中力をなくしてしまう。

そんな中で夏未さんは冬海先生に、決勝戦の会場へ行くのに使うバスの様子を見たいと言って、サッカー部全員を連れて車庫へと向かった。






「どうしたんですか?早く動かして下さい。」

「で、出来ません!!」

「何故ですか?」






夏未さんの頼みに、渋々バスに乗り込んでハンドルを握った冬海先生。けれど発進させてほしいという彼女の言葉は頑なに断り続けていた。どうも様子がおかしい。すると、夏未さんは一枚の紙を取り出した。





「ここに、恐るべき事実が記されています。」





その紙には、「決勝戦行きのバスには細工がしてある」と書かれていた。冬海先生は帝国から送り込まれたスパイで、帝国学園総帥である影山零治の命を受けて私達雷門イレブンを潰そうとしていたという。夏未さんは「そんな教師はいらない」そう言って冬海先生をクビにした。けれど先生に焦った様子はなくて、





「帝国のスパイが私だけだと思わないことです。」





──ねぇ、土門くん?


どうして私達って、いつもこう上手くいかないのかな。どうして私達って、いつも離れ離れになっちゃうのかな。

何も言わずに走り去っていく土門くんをただ見ているしか出来ない私はなんて無力な幼なじみだろうか。夏未さんに見せてもらった告発の手紙の字は明らかに土門くんのもので、これを書いた時の彼の気持ちを考えると泣きたくなった。





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河川敷で見つけた土門くんの表情はとても暗くて、私は何を言ったらいいのか分からなかった。だけど円堂くんはその屈託のない笑顔と真っ直ぐな言葉ですぐに土門くんを立ち直らせてしまった。幼なじみの私にも出来なかったことをいとも簡単にこなしてしまう円堂くんに少しだけ嫉妬してしまう。私にも、あんなふうに誰かを支えてあげられる力があったら。悔しくて、羨ましくて、だけど楽しそうにサッカーをする土門くんを見れたのが嬉しくて、涙が出そうになった。





「お、さすがは円堂だ。もう土門のこと立ち直らせたのか。」





ひょこっと覗くように現れた泉ちゃんに、涙で霞んでいた視界はあっという間にクリアになった。





「泉ちゃんは、土門くんのこと信じてくれる?」

「だって私ら、仲間なんだろ?」





当たり前だというようにサラリと言った泉ちゃんは、私を見てニッと笑う。違う回答を予想していた私は思わず目を見開いた。





「仲間なら信じるのは当たり前だって、円堂ならきっとそう言うよ。」





私も泉ちゃんも土門くんも、円堂くんに惹かれて今の雷門中サッカー部にいる。きっと他のみんなだってそう。円堂くんは明るくて暖かい私達の太陽みたいな人だから。





「ありがとう、泉ちゃん。」





信じてくれて、仲間と言ってくれて。














仲間ですから


(胸を張って言おう)

(私達は最高の仲間だと)







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