16.







彼女を見て、一番初めに思ったことは「変な子」だった。



サッカー日誌





朝倉泉。円堂による勧誘で最近入部してきた女の子。

現在フットボールフロンティアでは女子の参加も認められているために、彼女のデータも集めろとの命令があった。暗い部室の中、イナビカリ修練所でとれた彼女の身体能力のデータを抜き出し、一言一句、間違うことのないように書き写した。



「………。」




敗北に意味はない。勝利こそが真の正義。全ては勝利のために。それが俺達帝国学園の、影山総帥の考え方。俺は、帝国学園として勝つためにここに来て、スパイをしているんだ。なのに、何を躊躇う必要がある?


カタカタと、手が小さく震えていた。


いつからだったろう、こうしてコソコソとデータを集めるのに疑問を持ち始めたのは。仲間を、裏切ることが怖くなったのは。





「おーい、誰かいんのか?」





ガラッと開いた部室の戸にハッと顔を上げれば、逆光で黒くなったシルエットがポニーテールを揺らした。




「あ、土門か。なんだ残ってたのかお前。」




ニッと笑って、一緒に帰ろうぜと言った朝倉に、安堵の息を吐いた。

バレていない。




「い、今支度するからさ、待っててよ。」




無理矢理に笑顔を作って、朝倉に向ける。気付かれないようにファイルを片付け始めたけれど、ふと視線を入り口にやると、そこには未だに朝倉が立っていた。




「中、入らないの…か?」




俺のその問に、それまで笑っていた朝倉の顔が暗くなった。


ドクリ、


心臓が嫌な音を立てて、ツゥと汗が背中を滑り落ちていった。




「今入ったら……私は、お前を嫌いになるかもしれない。」




ポツリと小さく部室に響いた声に、あぁ彼女は気付いていたんだ、なんてどこか冷静でいる俺がいて。それでもやっぱりバレてしまったという事実が、ギュッと胸を締め付けた。




「私は、私をサッカーとちゃんと向き合わせてくれた円堂に感謝してるんだ。」




朝倉の真っ直ぐな目は円堂みたいで、体が金縛りにあったように動かなくなった。



──裏切りたくない。



あの太陽みたいに真っ直ぐな笑顔を、手放したくない。アイツは、俺がスパイであることを知ったらなんて思うだろうか。最低な奴だと、そう言って俺を軽蔑するだろうか。




「お前のこと話したら、アイツ悲しい顔するから。」




だから私は何も知らないままでいたい。朝倉はそう言ってまた笑った。
















眩しく輝く


(いつだって俺達は)

(太陽に恋い焦がれる)









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