世は大海賊時代。海は海賊旗に覆われ、人々は海賊達に支配されていた。私のいる島も例外ではなく、物心ついた頃から母さんも父さんも海賊達にこき使われていた。毎日18時間働いても家族全員が食べていけるようなお金は手に入らない。少しでも2人の負担を減らせたらと思って始めた盗みも毎回上手くいくわけじゃなかった。しかも今回は失敗の中でも最も最悪なパターンで、私が目を付けた見た目軟弱そうな麦藁帽子の男は海賊だったらしい。見事に捕まった。





「全く、最近の子供はどうしてこう仕付けがなってないの!?」





オレンジ色の髪をした綺麗なお姉さんは私を見ながらそう怒鳴った。今にも殴りかかって来そうなその人を後ろから鼻の長いピノキオみたいなお兄さんが抑えるも、すごい勢いで蹴り飛ばされて敢えなくノックアウト。奥の方で明らかに体の向きが反対な隠れ方をしている二足歩行のトナカイに視線を移せば、飛び上がって頭をぶつけて気絶した。言ってしまえばとても愉快な海賊である。どうやら私を殺す気はないらしいく、マリモ頭の剣士が縄を解いてくれた。金髪のスーツの人はホットミルクをくれたし、髪の毛の生えた骸骨は優しく頭を撫でてくれた。





「なんで盗みなんかしようとしたんだ?」

「生きていくのに必要なの。盗らなきゃ私達は一食のご飯にもありつけない。」





目線を合わせてジッと見てきた麦藁帽子の質問にそう答えてやると、目の前に袋が置かれた。





「金、やるよ。」





だから盗みなんて危ないことすんなよ。ニッと笑った麦藁帽子は私に袋を差し出す。けれどいつまでたっても私が袋を受け取らないものだから、キョトンとして首を傾げた。





「お金はいらない。持っててもこの島じゃ使えないもの。」

「お金が使えないですって!?」

「島のみんなが貧乏だからお店に行っても何も売ってないよ。」





お金がないから仕入れも出来ない。だからどのお店に行っても品物が並んでいるところなんかない。あってもみんながみんな自分のことでいっぱいいっぱいになっているから、島の人同士での争いも絶えなくて買い物どころじゃないんだ。それくらい私の島は治安が悪い。あまりの悪さに海軍も来なくなってしまった。





「でもあなた、捕まったのが私達だったから助かったのよ?」

「盗まなくても飢えて死ぬわ。」





黒髪のお姉さんは困ったように眉を下げた。私だって生半可な気持ちで盗みをしている訳じゃない。やってることは犯罪に値するということはよく分かってる。それでも、海賊とその海賊に支配されて可笑しくなって平気で人を殺すようになってしまった人々のいるこの島で、私は一生懸命生きてるつもりだ。





「いつか絶対アイツらより強くなって、アイツらの船で島から出てってやる。」





希望も何もないこんな島で一生を終えるなんて嫌だ。支配されることに抵抗をやめて夢を諦めた大人になるなんて嫌だ。少しだけ驚いたように目を見開いた麦藁帽子は「うーん」と腕を組んで考える素振りを見せた。





「お前、この島嫌いなのか?」

「そんなわけないでしょう?出来るならアイツらから取り戻したい。」

「そっか。じゃあさ、」






──そいつらぶっ飛ばしに行こう。






今までに何人の人がそう言ってアイツらに殺されたのだろうか。その度に人々の希望は薄れ、「自由」からどんどん遠ざかっていく。ぶっ飛ばすだなんて、そんなこと簡単にできる訳ない。相手は海賊、戦闘のプロ。自分達はただの一般市民でなんの力もない。





「無理、よ……。」

「無理じゃねぇ、出来る。」





変なの。自分だって海賊のくせに。まるで正義のヒーローみたいに困っている人を助けようとする。馬鹿みたい。弱そうだし、悪者っぽくないし。だけど、





「負けたら、許さない。」





何故だか差し出された手は力強く感じられた。



















少女よ大志を抱け


(夢みた未来はすぐそこに)







※作成期間、約4ヶ月(笑)






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