しち 全く状況がつかめていないまま墨村家と雪村家を行き来して、気付いたら良守くんのお兄さんと両親が話をしていて、私は夜行という組織へ入ることが決まっていた。 その間、時音や良守くんが傍にいて、結界師だとか鳥森だとかの話をしてくれたのだけど、ちっとも頭に入ってこなかった。 「名前ちゃん。」 これからよろしく。そう言って笑ったお兄さんは、優しく頭を撫でてくれた。 奥の方で母さんが泣いている。泣いている母さんを父さんが慰めている。 「私、どうなるんですか?」 正直、不安だった。泣きたいのは私の方だ。 あの怪物を倒したのだって、意図してやったんじゃない。今だって、竹箒に何か仕掛けがあったんじゃないかと思っている。 少しだけ困ったような顔をして、お兄さん、正守さんは私の手を引きながら歩き出した。 「名前!!」 過保護で子離れの出来ない父さんと、おっちょこちょいで子供みたいな母さん。16年間私を育ててくれた大好きな人。 どうしてもっと優しく出来なかったんだろう。なんでもっと一緒の時間を大切にしなかったんだろう。 「泣かないの?」 「泣いたらこの手を離してくれますか?」 「……そう、だね。」 ぎゅっと、握る力を強めた正守さんの手が温かい。 (さようなら。) 叫ぶように私を呼ぶ2人を振り返ることはなかった。 娘は旅立ちました! (今はただ、) (握ったこの手を離さぬように) |