大晦日。ここアリス学園では異例の忘年会が開かれていた。
「なまえ先輩!!」
呼ばれて振り返ると、おそらく天使か何かをモチーフにしたドレスを身にまとう蜜柑達が走ってくる。片手にはたくさんの料理を乗せた皿があり、今にも落ちそうだった。「蜜柑、転ぶぞ。」「うぎゃー!!」遅かったみたいだ。床に落ちた料理を少し苛々した様子のベアが片っ端から片付けていく。一方、転んだ蜜柑は怪我をしたようで大泣きしており、翼やら流架やらに慰めてもらっていた(転ぶ寸前に蛍ちゃんがバカン砲を撃ったなんて、私は見ていない)。
「にしても、わざわざ大晦日に忘年会なんてやらなくていいのに。」
「なんで?楽しいやん。」
「復活早いな。」
確かに楽しい行事が増えるのはとてもいいことであるが、明日の元旦もまた盛大に祝われるのだ。一般の新年会に行った後、花園会に顔を出して姫宮中等部校長のご機嫌をとりつつ抜け出し、棗と流架をつれて能力別クラスの新年会に出席する。正直言って面倒くさい。これ以上イベントを増やす意味が分からない。「暇が欲しいだなんて贅沢な悩みだな。」「黙れアホ殿。」そもそもあんたが特力の新年会企画したのに仕切ってくれないから私に回ってきたんじゃないか。
「あぁ……花園会抜けらんなかったらどうしよー。」
あんなキラキラびかびかした所、本当は行きたくないのだけれど。普段から何かと中等部校長にはお世話になっているし、その恩を仇で返す訳にはいかない。「そなたの好物を用意して待っておるぞ。」にっこりと微笑んだあの顔を直に見て断れる勇者がいるのであれば是非ともお会いしたい。
「ずるいよー。ウチもまた花園会行きたい!!」
「お前には一生無理だな。」
「なんやと棗コラー!!」
無理じゃない!そう同意を求められたけれど、蜜柑には奇跡でも起きない限り無理だと思う。むしろ流架とかの方が呼ばれる確率高いんじゃないだろうか。「ルカぴょんは男の子だから無理だねぇ。」「いや、読むなよ。」兎にも角にも明日から更に忙しくなる私はさっさと寝たいわけで、先程から何度も部屋に戻ろうとしているのだが棗からの視線が痛い。お姉さんものすごく眠たいんだけどなぁ。
「か、帰っちゃダメですか?」
「……………。」
ダメみたいです。いたらいたで相手にしてくれないくせに、帰ろうとすると不機嫌になる。相変わらず何を考えているのかよくわからない。この際もうここで寝てやろうかとも思ったけれど、床に座るだけで秀一がすごい顔をするので未遂に終わった。
「流架……なんか棗に睡眠時間を削られてるんだけど。」
こうなったら最後の手段。ルカぴょん発動。流架に泣きつけばきっと部屋に帰れる。「もうちょっと我慢して。」はい、私が甘かったです。
「棗がね、どうしてもやりたいことがあるんだって。」
「やりたいこと?」
困ったように笑う流架は優しい目で未だ蜜柑と言い争っている棗を見る。棗にやりたいことがあるだなんて珍しい。それじゃあ寝るわけにはいかないじゃないか。「何やるの?」「こうやって三人揃った大晦日は久しぶりだろ?だから、」
「2012年、一番になまえに挨拶したいんだってさ。」
年明け三十分前可愛い君に抱きつくまで5秒前。
(うあぁぁぁん!!棗も流架も大好きだよぅ!!)
(眠気でぶっ壊れた?)
※あ、あと三十分!