「…………え?」
サッカー日誌サッカーというスポーツをフィフスセクターが管理するようになったこの時代にも、大晦日というものは存在するわけで。特に一緒に過ごしたい人もいなかったので自宅でだらだらテレビを見ながら蜜柑を食べていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。時計を見ればもうそろそろ年が明けそうな時間、つまり夜中で、こんな時間に誰だろうとドアを開けると見覚えのあるここにいてはいけない白髪青緑メッシュがいた。
「久しぶりだ、」
バタン
見てない。私は何も見てない。そうだ幻覚だ。だって敵のボスがこんなところに来るわけないじゃないか。ピンポーン。あぁぁあぁあ!!鳴るなインターフォン!!嘘だ、誰かドッキリだって言ってくれ!!
「何故閉めるんだ!?」
「いや、帰れよお前!!何やってんだ!!」
「大晦日ぐらい良いだろう!!一時休戦だ!!」
「他を当たれ馬鹿!!」
有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない。ドアを一枚挟んだ先でインターフォンを連打しながら大声を出す近所迷惑な奴は、紛れもなくイシドシュウジもとい豪炎寺修也だった。
「イシドシュウジは受け付けておりません!!」
「ふざけるな!私に凍えて飢死にしろというのか!?」
「せめてなんか食ってこいやァァァア!!」
───
──────
壮絶なバトルの末、結局先に折れたのは私の方で、仕方なくドアを開けると頭に雪を積もらせ鼻水を凍らせている間抜けなイシドシュウジがいた。なんでも、フィフスセクター本部の人間がみんな帰省していて寂しくなってしまったらしい。いいのかフィフスセクター、こんなのがボスで。そんなこんなで車も出せずに歩いてここまで来たところ、今度は私に帰れと言われ、身も心も凍りついたという。
「おい、その言い方だと私が悪いみたいだろ。」
「普通こんな真冬の夜中に客人を外で待たせんだろう。」
「偉そうだな畜生。」
こたつで勝手に蜜柑を食べ始めたあいつは本当に誰だ。声も、匂いも、目だって、確かに豪炎寺修也その人なのに。自分をイシドシュウジだと言い張るあいつは一体、
「みょうじ。」
懐かしい声が、優しく私を呼んだ。蜜柑をむく手を止めて顔を上げると、イシドシュウジは真っ直ぐこちらを見ていた。
「フィフスセクターに入らないか?」
「……その話は何度も断ったはずだ。」
「そうか……。」
豪炎寺がなんの考えもなしにフィフスセクターなんてやるわけがない。きっとまた何か1人で抱え込んで苦しんでいるんだろう。だけど大好きなサッカーに、円堂に嘘をつくことが出来なくて、だから私はレジスタンスに入った。私はイシドシュウジから、豪炎寺から逃げたんだ。それでも時折かかってくる電話の声を聞くとどうしようもなく嬉しくなってしまう。
「私は、汚い。」
円堂達と革命を起こすと決めたのに、まだこの大きくて温かい手を離すことが出来ないでいる。
「すまない。」
そっと回された優しい手と苦しそうなその声は、確かに私達の仲間だった頃の君のものだった。
年明け一時間前(願わくば)
(年が明けても君が隣にいますように)
※まさかのシリアス(笑)